「わかったとこで、どうにもなんないけど…」
「さっさと二人担いで撤退してえとこだが…」
「轟くんの氷も炎も、そして隙をついた私のナイフでさえ避けられるほどの反応速度…そんな隙見せられないね…」


ナイフの刺さった右腕がズキズキする。
こりゃしばらくナイフの特訓は無理だなぁ…。


「プロが来るまで近接を避けつつ粘るのが最善だと思う」


みんなで顔を見合わせて頷く。


「轟くんとみょうじさんは血を流しすぎてる。僕が奴の気を引きつけるから後方支援を!」
「相当危ねえ橋だが…そだな」
「もう壁を作るくらいしかできないけど…」


三人で、構える。
ヒーロー殺しを真っ直ぐ見据えて。



「三人で守るぞ」



私は小さく頷いて、自分にできる最善を考える。
壁を作っても場合によっては邪魔になることがあるかもしれない…慎重に使わねば。


「3対1か…甘くはないな」


緑谷くんがヒーロー殺しに向かって行く。
邪魔をしないように轟くんが炎で後方支援。
飛んでくるナイフには私が盾を作り出して回避。


「やめてくれ……もう…僕は…」


飯田くんの小さな声が、私たちを奮い立たせた。



「やめて欲しけりゃ立て!!」



緑谷くんが血を奪われ動けなくなる。

「ごめん轟くん、みょうじさん!」

私はとっさに彼の前にガラスで壁を作る。



「なりてぇもんちゃんと見ろ!!」



轟くんの叫び声が、切なく感じた。
私もすうっと大きく息を吸う。


「飯田くん!私は委員長決めの時に君に入れたの!私は君が一番適任だって…皆を引っ張って行ける人だって思ったから…!私はまだ信じてる。飯田くんが……私が思い描いてる理想の委員長だって!」


ゴオ、と轟くんが素早く炎を出す。
それを軽々避ける。
動きが、早くなってないかこの人…っ!?


「氷に炎…言われたことはないか?個性にかまけ挙動が大雑把だと」


フッといつの間にか轟くんの間合いに入っていた。
彼に刀が、近付く。


「轟くんッ!!」


私が叫ぶ。
壁、いや盾…!ま、間に合わない!!


「化けモンが…」


思わず私が駆け出す。
轟くんを押しのけて、倒れる。

刀の刃が、私の肩から背中を滑る。
じんと熱いものが溢れ出る感覚が気持ち悪い。

「!」

後ろで、飯田くんが立ち上がる。


「レシプロ…バースト!!」


私と轟くんの間に入り、飯田くんの蹴りががん!と良い音を立ててヒーロー殺しの顔面に入る。


「…っ!みょうじ!大丈夫か!?」


轟くんになだれかかったまま、動けなくなった。
いつの間にか血を舐められたらしい。


「だ、だいじょ、うぶ」
「じゃねえだろ!?背中…!なんで庇った!」


轟くんが私の肩から背中の傷を見て悲痛な声を出す。
痛い。背中も、右腕も。

でも、今私が皆の邪魔をするわけにはいかない。


「飯田くん!解けたんだね… みょうじさんは平気なの!?」
「平気じゃねえ」
「平気だってば…」


動けなくなった私を、轟くんがお姫様抱っこで壁際に座らせてくれる。


「みょうじくんも…轟くんも緑谷くんも関係ない事で…申し訳ない」
「またそんなことを…」
「関係ないなんて…!」


緑谷くんと私が、静かに怒る。



…あれ?


なんか目の前が、ゆらりと歪む。


ヒーロー殺しにこんな個性もあったの…か…?


頭の中がすとんとジェットコースターか何かで落ちるような感覚に陥って、私の意識がそこで途切れた。



44 轟から飯田へ
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