次の日は言われた通り基礎トレやら軽く身体を動かし、キリサキジャックが書類などに目を通したりしたのちに街へパトロールをして終了した。
そして今日…。
「保須市…ですか?」
明らかに嫌な顔をした私を見たキリサキジャックが、ん?と言う顔をする。
「何かあったか?」
「い、いえ…それでその、保須市に応援要請が?」
「ああ…なんかまあ、一応な。いい機会だ、着いてこいみょうじ」
「はい!」
保須市…私にとってはいい思い出のある場所じゃない。
あれ…そういえば飯田くんも保須市の事務所に行ってるんだったっけ。
「早くしろみょうじ!」
「は、はい!今行きますーっ!」
▽
「キリサキジャックの事務所の方ほどでは無いですけど…保須市も中々栄えてますよね」
「まあな。ここらへんはショッピングモールやら映画館やら色々あるからな」
ショッピングモール…。
いや、今思い出すのはやめておこう。
ふと何かコンクリートのような硬いものが壊れるような夥しい音がして、そちらを見る。
「あれって…!!」
USJで見た脳味噌剥き出しの敵によく似てる…!
「みょうじお前は何もするなよ」
「はい」
キリサキジャックが敵に向かって走っていく。
ナイフを数本作り出し、的確に敵を攻め動けない程のダメージを喰らわせて、捕縛する。
その動きには何の迷いも無駄もなくとても綺麗だった。
「みょうじ!こいつを見張っていろ!警察が来たら引き渡すんだ。…人間には見えねえが…一応殺さずにいておいたからな。俺はこの周りを見回る。…あと、動き出すようなら攻撃していい」
「わ、わかりました!!」
キリサキジャックは華麗なステップで走り去っていく。
すぐに警察がやってきて、キリサキジャックの職場体験中であること、彼が他の敵の元へ行ったことを話して敵を引き渡す。
ヴヴヴ、とスマホが震える。
「宛先…緑谷くん?一括送信になってる…」
中身は位置情報だった。
それも今、私がいる場所からあまり遠くない。
「!」
同じ保須市内、他の敵がまだまだいるって言うことだ。
そして緑谷くんはその存在に気付いて応援を呼んでいる。
彼が無駄に変なことをするような子じゃないことを私は知っている。
私は走り出した。
キリサキジャックに怒られるだろうな、と頭の隅に置いておきながらもこのメールを無視するという選択肢はなかった。
「ま、待ちなさい!どこに行くんだ君は!?」
後ろから敵を引き渡した警官の制する声が聞こえる。
私は振り向くことなく叫ぶ。
「キリサキジャックが来たら江向通り4-2-10の細道に来て欲しいことを伝えてください!!友達が危険かもしれないんです!」
とにかく近道して走る。
間に合えばいいんだけど…!
しばらく走っていると、少し先に見慣れた紅白の頭を見つけ、驚く。
彼もここにいたのか…!
「轟くん!!」
私が叫ぶと、轟くんは私が横に来るまで少しスピードを緩める。
「みょうじ!お前もここに来てたのか」
「それよりっ…緑谷くんの!位置情報!」
「ああ…何かあったに違いねえ」
二人でとにかく走る。
4-2-10の、細道…!ここだ!
遠くに、飯田くんと誰か別のヒーローが倒れているのが見えた。
そして、1人対峙している緑谷くん。
彼の身体が急に動かなくなった。
やばい…!!
「ちくしょう!!やめろ!!」
緑谷くんが叫ぶ。
ごお、と隣から熱を感じる。
轟くんが敵に向かって炎を放つ。
私は敵が避けるであろう位置を予想し思い切りガラスのナイフを投げる。
「!!」
炎を避け、更にナイフに気付いた敵は身を捩って宙で避ける。
「あっぶねえなァ…次から次へと…今日はよく邪魔が入る」
じり、と2人で構える。
「緑谷…こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ」
「遅れてごめん、緑谷くん!ここからは一緒に戦おう!」
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42 ヒーロー殺し