そして一対一のガチバトル…トーナメントが始まった。


一回戦、緑谷くんvs心操くん。


始まった途端、心操くんが挑発するように喋りだし、忠告したにも関わらず緑谷くんはそれに乗っかってしまったようだ。

くるりと振り向いて、緑谷くんが場外に向かって歩いて行く。


「緑谷くん…!」
「あああ緑谷折角忠告したっていうのに…!」


尾白くんと二人で頭を抱える。


「場外に出ちゃうよ、緑谷くん…!!」


彼の周りに風が吹き、場外ギリギリで緑谷くんが踏みとどまる。
よく見てみると、指が腫れ上がっているのが見えた。


個性を…発動させた…?


それに焦った心操くんは緑谷くんに必死に話し掛ける。
今度はもう、緑谷くんは何も答えなかった。
そのまま心操くんを押し出そうと掴みかかる。
心操くんも出されまいと抵抗するが、経験の差…。

緑谷くんが、心操くんを背負い投げし、場外に出した。


『心操くん場外!緑谷くん二回戦進出!!』


わあっと歓声が上がる。
私はホッとして背もたれにもたれ掛かる。

尾白くんと目があったのでお互いに親指を立てた。


「さて、私もそろそろ控え室に行くかな…」


ゆっくりと立ち上がる。
今のところ戦略も何も考えてなかった。
でも、負けない。



「なまえちゃん、頑張って!」
「ここで応援してるぞ!」

お茶子ちゃんと飯田くんが声をかけてくれた。
私は大きく頷いて、控え室へと向かった。







"その人"が立っている場所だけ、まるで異空間のように感じた。
身体に炎を纏っているにも関わらず冷たい雰囲気を持つプロヒーロー。


エンデヴァー!!


腕を組み、廊下に佇んでいるエンデヴァー。
何でこんなところに…!

"あの日"からいつか会いたいと思っていた相手だ。
しかし実際会うとどうしたらいいか分からなくなってしまった。


「…お前は…障害物競走の時焦凍と共に走ってた奴だな」
「!見てたんですか」
「…」


エンデヴァーの瞳は、あの日から変わっていない。
冷たい言葉で私に希望を与え、酷い行動で轟くんを絶望させた、その瞳を見つめる。


「覚えてますか、保須市ショッピングモール敵襲来事件…あの時あなたに、助けてもらいました。それからヒーローを目指して今ここにいます」
「…その事件のことなら覚えている。が、お前のことは覚えていない」

予想していた通りだが、少し残念なようなホッとしたような気持ちになる。


「私、貴方の息子さんに勝ちますから!それでは」


ふん、と鼻で笑う声が聞こえた。
エンデヴァーの視線を背中に受けて、控え室へ向かう。

控え室のドアを開けて、すぐ近くのパイプ椅子に腰を下ろした時だった。
ズシンと建物が揺れた。


「な、に…?」


今は確か、轟くんと瀬呂くんが戦っているはず…まさか。


『瀬呂くん行動不能!!轟くん二回戦進出!!』


ミッドナイトの、マイク越しの声が聞こえた。
轟くんの、氷結でこの振動か…。

分かってはいたけど、轟くん、強すぎる…!


会場からはどーんまーいとドンマイコールが聞こえてくる。
瀬呂くんこっぴどくやられてしまったか…。


私も今は一回戦のことを考えなければ!!


ぺちんと自分で両頬を叩いて気合を入れる。



29 勝ち負け
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