「探しちゃった、ここにいたんだね」

サンドイッチとオレンジジュースを手に、轟くんの前に座る。
彼は既にざる蕎麦を食べている途中だった。


「… みょうじか。何か用か」
「うん…」

サンドイッチを袋から取り出し、小さくかじって咀嚼する。
どこから話そうか。
ああ、まず聞いてしまったことを謝らなければ。


「…さっき、緑谷くんと話してるの聞いちゃった」


轟くんは一瞬目を見開いて、そうか、とだけ言った。


「ごめんね。…それで…私の話も聞いてほしいと思ったの」
「お前の、話?」

私は長い長い、生まれた瞬間から背負った自分の挫折とある人から貰った希望の話を彼にする。







代々医療に従事し病院を経営している家庭がありました。
そこに生まれた私の父は、当然のように医療関係の個性を持ち…。
当然のように医療関係の個性を持つ女性と"個性婚"させられそうになりました。

しかし父には別に愛した女の人がいました。
祖父に猛反対された末、半ば無理やり結婚し、子供…私が生まれました。

個性の出ないうちはまだ幸せでした。

しかし私が4歳を迎える頃になると、私の個性が父のものではなく母のものを受け継いだことを知った祖父は、父や母に当たり散らしました。

身体の弱かった母は祖父からの暴言に気を病み、病気を拗らせ死にました。
残った父は、私を守りながらも自分が何とか病院を経営するからと祖父を宥めました。


祖父や親戚は、私を責めました。


お前が悪いのだと
お前の個性が悪いのだと
生まれなければ良かった。要らない子だ。


父は必死に庇ってくれたけど、幼い私も悪意が向けられていることは理解できました。


忙しい日々を送る父が、私の誕生日の日に周りに嫌味を言われながらも休みを取ってくれました。
誕生日プレゼントを買ってくれると、遠くのショッピングモールへ出かけました。







「ショッピングモール…轟くんなら、分かるよね…5年前の"保須市ショッピングモール敵襲来事件"」
「…!」

轟くんは顔を上げる。
まさか、と。

「買い物客を人質にし、敵が暴れて数人の死者と数十人の重軽症者を出したあの事件…最初、私は人質だった。父が私を助けに入って、驚いた敵は父を攻撃し…父は私を必死に守って…死んじゃった」


そこまで言って、ちぅ、とオレンジジュースのストローを吸う。


「そして、エンデヴァーが助けに来てくれた」







父の亡骸に縋り付きながら泣き叫ぶ私の前に、エンデヴァーが現れた。


『私が…私が死ねば良かったのに…!!お父さん…お父さん!!』


泣き叫ぶ私に、エンデヴァーは冷たい視線のまま吐き捨てた。


『こんな戯言を言う小娘を助けた父は愚かだったな』
『…!?』


驚いて、見上げる。
エンデヴァーは片膝をついて父の死を確認する。
そして、静かにその亡骸を見つめた。


『しかし、娘を助けたこの男は立派なヒーローだ。何も分からない小娘が馬鹿な事を喚くな』
『ヒー…ロー…』


私の涙が、父にこぼれ落ちる。


動かなくなった父の手を、思わず握りしめる。
泣いているといつも優しく涙を拭ってくれる温かい手は、少しずつ温度を下げていく。


ごめん、ごめんね…!
せっかく助けてくれたのに。
お父さんが命をかけて守ってくれたのに!


馬鹿なことを言う娘でごめん。


私も、なれるかな。
お父さんみたいに、誰かを守れるヒーローに…!







「話は終わり。私、轟くんがエンデヴァーの息子だって知らなかった…。轟くんがエンデヴァーを憎む気持ち、私少しだけ分かるよ。私も祖父を憎んでたから」


残りのサンドイッチを口に放り込む。


「私の個性がせめて父のものだったら、と母はいつも泣いていた…でも私は自分の個性に誇りを持ってる!轟くんも、自分の個性に…誇りを持ってほしいな」


轟くんは、何も言わなかった。


「なまえさん!こんな所にいましたのね!」
「百ちゃん!響香ちゃん!どうしたの?」
「早く来て!更衣室!」
「え?え?わああ!!じゃあ轟くんまた後でねえええ」


百ちゃんと響香ちゃんに引きずられるように連れて行かれた。



27 全てを否定され生まれた女の子
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