「ふぅースッキリしたあー」

女の子が言ってはいけないセリフトップ10に入るんじゃないかという独り言を呟き、お昼ご飯を食べに食堂へ向かおうと歩き出す。

戻る途中に関係者入り口と看板が掛かっている場所に爆豪くんが立っていた。
おっ、お茶目さんめ、道に迷ったのかな?仕方ない食堂まで案内してあげよう。そう思って声をかける。


「あれー?爆豪くっ、んんん!?」


爆豪くんが一瞬で私の背後に回って口を塞ぐ。
赤い瞳が私を睨みつける。


なになになに!?怖い!私殺されちゃうの!?



「俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ…万年No.2のヒーローだ」



この声、轟くん…?
ていうか、お父さんエンデヴァーだったの!?


「自分ではオールマイトを超えられねぇ親父は次の策に出た」
「何の話だよ轟くん…僕に…何を言いたいんだ…」


私が大人しくなったことに気付いた爆豪くんが、その力を緩める。
緑谷くんと轟くんが少し奥の方で何やら真面目な話をしているということだけは理解した。


「個性婚、知ってるよな」
「…!」
「自身の個性をより強化して継がせる為だけに配偶者を選び…結婚を強いる、倫理観の欠落した全時代的発想。実績と金だけはある男だ…親父は母の親族を丸め込み母の個性を手に入れた」


個性、婚。
頭が真っ白になった。
だってそれは、私の"家"もかつて似たようなことが強いられていたから。


「オールマイト以上のヒーローを育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった。鬱陶しい…!そんな屑の道具にはならねえ」


轟くんの声は、どんどん悲痛なものになっていく。
それと同時に、少しずつ、私の身体が震えていく。


「記憶の中の母はいつも泣いている…"お前の左側が醜い"と母は俺に煮え湯を浴びせた」


驚きと、悲しみ。
彼の気持ちや思いなんて私に計り知れるものではないけれど。
それでも…相当辛かったろうなと思うと、胸が張り裂けそうになって、ぽろ、と一滴涙がこぼれた。


「クソ親父の個性なんざなくたって…いや…使わず一番になることで奴を完全否定する」


しばらくして、二人の足音が遠ざかっていく。


「お前…泣いてんのか」
「!な、泣いてない!」
「めんどくせェ女」

チッと爆豪くんは舌打ちして去っていく。


聞いてしまった、轟くんの"生い立ち"。
そして、思い出してしまう自分の"生い立ち"。


誰にも言ったことのない、言えなかった私の事。


轟くんのことを偶然にも知ってしまった。
だから私のことも、聞いて欲しい。
これは私の我儘だろうか。それでも。


彼に私の挫折と希望の話を聞いて欲しいと思った。



26 全てを持って生まれた男の子
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