「皆ーーー!!朝のホームルームが始まる、席につけーー!!」
「ついてるよ、ついてねーのおめだけだ」
思わず吹き出す。
わざわざ立ち上がって教壇まで行く間に皆席についてることに気がつかなかったのだろうか。
飯田くん、本当に面白すぎる。
「今日は誰か他の先生が来るのかな?」
「そうですわね…相澤先生はあの大怪我でしたし…」
百ちゃんと先生の話をしていると、教室のドアが開いて包帯ぐるぐる巻きの相澤先生が入ってきた。
「「「相澤先生復帰早えええ!!!」」」
さすがにびっくりする。
ていうか大丈夫なのかアレは…。
「先生無事だったのですね!!」
「俺の安否はどうでも良い。それより戦いはまだ終わってねえ」
その言葉に教室中がざわつく。
「戦い?」「まさか…」「まだ敵がー!?」
前の席の峰田くんが震え上がっている。
「雄英体育祭が迫ってる!」
皆からホッと言う声が聞こえたのと同時に歓声。
「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!!」」」
…とは言ったものの。昨日の今日…いや一昨日の今日だけど敵に侵入されたばかりなのにと驚く。
「待って待って!敵に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」
「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す…って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。何より雄英体育祭は……最大のチャンス。敵ごときで中止していい催しじゃねえ」
確かに毎年あの盛り上がりだもんなあ。
いやそこは中止しよう?という峰田くんに緑谷くんが雄英体育祭見たことないの!?と驚く。雄英体育祭見たことない人がいたら驚きだ。
雄英体育祭は、かつて盛んだったらしいオリンピックに代わるほどのビッグイベント。
全国のプロヒーローさらにトップヒーローまでもがスカウト目的で観戦するほど。
「燃えるねー!百ちゃん!」
「ええ、頑張りましょうね!」
雄英体育祭…!
今度こそ負けないぞ…!!
「年に一回…計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」
▽
放課後…
「うおおお…何事だあ!?」
「すごい、人がいっぱい…まさかまた報道陣!?生徒に見せかけて今度は教室前にまで…」
「いやちゃうと思うよなまえちゃん」
1-Aの教室前がやけに騒がしくなったと思ったらたくさんの生徒たち。
教室を覗くようにひそひそ…あんまり気分の良いものではない。
「出れねーじゃん!何しに来たんだよ!」
「敵情視察だろザコ」
文句を言う峰田くんにバッサリ切り捨てる爆豪くん。
峰田くんはわなわなと彼の背中を指差し、緑谷くんがあれがニュートラルだから…と宥めている。
「敵の襲撃耐え抜いた連中だもんな、体育祭前に見ときてえんだろ」
爆豪くんは何でもないようにドアの前まで歩いて行く。
そして教室前の人たちを睨みつける。
「意味ねェからどけモブ共」
わあ怖い。
「爆豪くん、ほら皆ビビっちゃってるし?後知らない人モブとか言っちゃダメだよ!敵情視察に意味なんかないって点は賛成だけどさ」
「うるせェガラス女黙っとけ!」
毎回私のフォローブチギレられるーー!!!
「どんなもんかと見に来たが随分偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴は皆こうなのかい?」
私と緑谷くんと飯田くんはブンブン!と高速で首を横に振る。
「ああ!?」
「こういうの見ちゃうと幻滅しちゃうなあ」
一人の男の子が後ろからずいっと出て来る。
「普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴結構いるんだ知ってた?」
爆豪くんはその問いにハア?という顔をする。
「体育祭のリザルトによっちゃヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ…敵情視察?少なくとも俺は調子乗ってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー…宣戦布告に来たつもり」
なかなか大胆不敵な人だなあ。
でも、調子に乗ってるとか言われて黙っていられない。
「ごめん、悪いけどうちのクラスにヒーロー科落とされるような子はいないよ?」
私がニコと笑って答える。
宣戦布告してきた男の子は意外そうに私を見た。
「隣のB組のモンだけどよぅ!!」
ぐおっと人の波かき分けて別の男の子が乗り込んでくる。
おいまた別の人来たぞ…。
「敵と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!!エラく調子づいちゃってんなオイ!!」
また不敵な人だ!多いな不敵な人!!
「「「……」」」
爆豪くんが教室前の人を押し除けて帰ろうとする。
流石に付き合い切れないのだろう。
「待てコラどうしてくれんだおめーのせいでヘイト集まりまくってんじゃねえか!!」
「関係ねぇよ…」
「はあー!?」
「上に上がりゃ関係ねえ」
確かに…!
「く…!シンプルで男らしいじゃねえか!」
「上か…一理ある」
「騙されんな!無駄に敵増やしただけだぞ!」
切島くんや常闇くんが賛同している。
上鳴くんは納得していないようだ。
「それにヘイト集めたってんならそこのガラス女もだろ」
「えっ…私?ごめんそんなつもりじゃなかったんだけど」
皆にごめんねと謝る。
お茶子ちゃんは庇ってくれたんだよねと逆にお礼を言ってくれた。
「みょうじ…珍しいな」
「轟くん…」
「さっきのは明らかにちょっとキレてただろ」
キレる、まではいかないけど。
「皆調子乗ってるわけでもないしむしろ相手が誰であろうと本気で戦おうと思ってるのに、ああいう風に言われちゃうと流石に黙っていられないというかなんというか…」
轟くんがへえと僅かに口角を上げた。
「みょうじらしいな」
心臓が一瞬大きく跳ねた。
…何だ今の?
轟くんは人がまばらになった廊下に出て行った。その背中を見えなくなるまで見届けた。
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20 敵情視察?