「ガラスのナイフに、氷結…!」
私たちの攻撃に気付いたオールマイトが、脳味噌敵の手が緩んだ隙をついて敵から距離を取る。
「出入り口を押さえられた…こりゃあピンチだなあ…」
顔に手を付けた人が、抑揚のない声色で言う。
それを聞いた爆豪くんはハッと笑う。
「思った通りだ!モヤ状のワープゲートになれる箇所は限られてる!そのモヤゲートで実体部分を覆ってたんだろ!?全身モヤの物理攻撃無効人生なら"危ない"っつー発想は出ねぇもんなあ!!!」
なるほど、と理解する。
それにしても爆豪くん、強いだけじゃなくて頭も回るなんて本当すごいなあ。
動こうとした黒いモヤの敵に、爆豪くんはすぐに気付く。
「動くな!!怪しい動きをしたと俺が判断したらすぐ爆破する!!」
「ヒーローらしからぬ言動…」
「敵側にいても違和感ない!」
切島くんと私が苦笑する。
爆豪くんにうるせぇ!と怒られてしまった。
「攻略された上に全員ほぼ無傷…すごいなあ最近の子供は…恥ずかしくなってくるぜ敵連合…!」
言葉の割に、悲壮感を感じない。
何がこの人をそこまでの自信に繋げているのだろうか。
「脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入り口の奪還だ」
「…!!」
その言葉を聞いた脳味噌敵が、バキバキと氷を折って地面の黒いモヤから這い出てくる。
「身体が割れてるのに…動いてる…!?」
「皆下がれ!!なんだ!?ショック吸収の個性じゃないのか!?」
オールマイトが皆を制する。
「別にそれだけとは言ってないだろう。これは"超再生"だな…脳無はおまえの100%にも耐えられるよう改造された超高性能サンドバッグ人間さ」
人間…?
これが人間だというのか。
ぞわと鳥肌が立つのを感じる。
こんなの、狂気でしかない。
脳無と呼ばれた化け物じみた何かが、爆豪くんを視界に捉える。
その瞬間、爆風。
「かっちゃん!!!」
次に目を開いた時には、爆豪くんは緑谷くんの横にいた。
「かっちゃん!!?よっ、避けられたの!?すごい…!」
「違えよ黙れカス」
何も見えなかった…!
何がどうなったのか、私は慌てて周りをきょろきょろとする。
少し遠くに、傷を負ったオールマイトの姿。
「爆豪くんを…かばったんだ…」
あの何も見えなかった間に、爆豪くんを庇うだけの瞬発力と判断力…。
何もかもがすごすぎる…!
「俺はな怒ってるんだオールマイト!同じ暴力がヒーローと敵でカテゴライズされ善し悪しが決まるこの世の中に!!何が平和の象徴!!所詮抑圧の為の暴力装置だおまえは!暴力は暴力しか生まないのだとおまえをころすことで世に知らしめるのさ!」
何を…言ってるんだこの男は…!!
言っていることとやっていることがめちゃくちゃだ。
「そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ嘘つきめ」
オールマイトが諭すように静かに怒る。
それに対して顔に手を付けた敵はニタァと笑う。
「バレるの早…」
ゆっくり私は構える。
こんな奴に…負けたくない…!
何とかオールマイトの邪魔にならないようにサポートできれば…。
「三対六だ」
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた…!」
「私たち、邪魔にならないようにサポートします!!」
「ダメだ!!逃げなさい」
私たちの提案を、オールマイトはピシャリと却下する。
「…さっきのは俺やみょうじがサポート入らなけりゃやばかったでしょう」
「それはそれだ轟少年!!みょうじ少女もありがとな!!しかし大丈夫!プロの本気を見ていなさい!!」
顔に手を付けた敵が走ってくる。
「クリアして帰ろう」
そう呟いた瞬間、オールマイトからの威圧。
これは、殺気…。
気圧される。
思わず身体が強張った。
そして、オールマイトが脳無に拳を振るう。
何度も何度も、目に見えないほどの速さで。
脳無も負けじと殴り合う。
真正面からの殴り合いだ。
「無効ではなく吸収ならば!!限度があるんじゃないか!?私対策!?私の100%を堪えるなら!!さらに上からねじ伏せよう!!」
オールマイトが、血を吐きながら、ものすごい速さで殴る。
恐らくその一発一発が、100%の力で。
「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!!…敵よ、こんな言葉を知ってるか!!?」
オールマイトが、一瞬さらに力を込めたように見えた。
「Puls Ultra!!!!」
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17 オールマイト