「「お米がうまい!」」
お茶子ちゃんとハモる。
「やっぱお米に落ち着くよねー」「ねー」
二人で和風定食をぱくつく。
私の隣に座っている緑谷くんは買ったカツ丼に中々手をつけずにいた。
「いざ委員長やるとなると務まるか不安だよ…」
「ツトマル」
「大丈夫さ」
「なせばなる!何事もチャレンジだよ緑谷くん!」
お茶子ちゃんもうんうんと頷いている。
「緑谷くんのここぞという時の胆力や判断力は、多を牽引するに値する。だから君に投票したのだ」
やっぱり飯田くん、緑谷くんに入れてたんだなあ。
「でも飯田くんも委員長やりたかったんじゃないの?メガネだし!」
「メガネだし!?」
私は思わず吹き出す。
しかし、飯田くんは気にしていないようだ。
「やりたいと相応しいか否かは別の話…僕は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」
「「「僕…!!」」」
三人でハモる。
飯田くんが「僕」っていうのを初めて聞いた。
「ちょっと思ってたけど飯田くんて…坊ちゃん!?」
「私もちょっと思ってた!!」
お茶子ちゃんと一緒に聞くと、飯田くんは苦笑した。
「そう言われるのが嫌で一人称を変えてたんだが…俺の家は代々ヒーロー一家なんだ。俺はその次男だよ」
「ええーー!!凄ーーー!!」
うちと少し似てるなあ。
うちは"ヒーロー"ではないけれど。
「ターボヒーローインゲニウムは知っているかい?」
「もちろんだよ!!東京の事務所に65人ものサイドキックを雇っている大人気ヒーローじゃないか!!まさか…!」
「それが僕の兄さ!」
「あからさま!!すごいや!!!!」
私も知ってるよインゲニウム!そう言えば個性が飯田くんに似てるもんね気がつかなかったなあ。
「規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー!俺はそんな兄に憧れヒーローを志した。人を導く立場はまだ俺には早いのだと思う。上手の緑谷くんが就任するのが正しい!」
飯田くんが笑った。
お兄さんの話をしている時の飯田くんは本当に楽しそうで嬉しそうだ。
ヴヴーーー!!!と急に警報が鳴り出し、驚いて思わず立ち上がった。
「警報!?」
《セキュリティ3が突破されました生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください》
「セキュリティ3て何ですか?」
「校舎内に誰か侵入してきたってことだよ!三年間でこんなの初めてだ!君らも早く!!」
言われるまま、何となく廊下に出たのが最後。
人混みに揉まれていつの間にか緑谷くんやお茶子ちゃん、飯田くんと別れてしまっていた。
私はそんなに背が高くないので人に押しつぶされて苦しい。
「みょうじ!大丈夫か!?」
「き、きりしま、くん!」
揉みくちゃにされながらも何とか私の手を取ってくれた。
「うわっ、みょうじ?」
「上鳴くんも!だ、大丈夫?」
「いやそれこっちのセリフ…っていうかちょ、あんまくっつかないで!?」
「いやそれ無理…」
後ろに切島くん、前に上鳴くんのサンドイッチの出来上がりだった。
「き、切島くんその、君の足が私の…その、間に…」
「わ、悪い!!でも動けねえ!!」
「切島…俺の背中に二つの柔らかい感触が…もう、死んでもいい…」
「上鳴くん最低だよ!?」
「うぇ〜〜い…」
そうこうしているうちに、少し前にいた飯田くんがいつの間にか非常口の上で非常口の標識のような形をしていた。
「皆さん…大丈ーーー夫!!!!」
その一言で、我先にと動こうとしていた人たちの動きはピタリと止まった。
「ただのマスコミです!何もパニックになることはありません!大丈ー夫!!ここは雄英!最高峰の人間に相応しい行動を取りましょう!!」
そしてどんどん人がまばらになっていき、サンドイッチ状態から解放された。
「えっと…ごめんね、ありがとう、切島くん上鳴くん」
「悪かったな、怪我してねえか?」
「大丈夫だよ!」
「こちらこそありがとうみょうじ」
「だから最低だよ!?」
▽
そして他の委員決めの時間になった。
「ホラ委員長始めて」
「でっでは他の委員決めを執り行って参ります!」
ガチガチの緑谷くん。大丈夫かなあ…。
「……けど、その前にいいですか!委員長はやっぱり飯田くんがいいと思います!あんな風にかっこよく人をまとめられるんだ。僕は…飯田くんがやるのが正しいと思うよ」
いつの間にか緊張が溶けていた緑谷くんは、真っ直ぐな目で飯田くんを見ていた。
「良いんじゃね!?飯田食堂で超活躍してたし!!緑谷でも別にいいけどさ」
「非常口の標識みてえになってたよな!!」
切島くんと上鳴くんが同意してくれたお陰で同調モードになっていた。
「何でもいいから早く進めろ…時間がもったいない」
寝袋から緑谷くんを睨む相澤先生が怖い。
「委員長の指名ならば仕方あるまい!!」
任せたぞ非常口!
非常口飯田!!と周りから声が上がった。
← →
13 いいぞガンバレ飯田くん2