「俺達、死んだらお星様になれるんですかねィ」

総悟がぽつりと呟いた。珍しく非現実的というか、いや、非現実的なのはいつものことだが、なんというか感傷的なようだった。そんなふうに言いたくなる程星空が綺麗なのかと見上げてみたが、生憎星は確かに出ているが、ひどく汚れたこの町の空気を通してでは薄汚れた物にしか見えなかった。

「なあ土方さん、答えてくれねーんですかィ」
「独り言じゃねーのかよ」
「独り言な訳無いだろ空気読んでくれよ土方ー」
「何お前何キャラ?ムカつく」

いつものように俺を茶化す総悟の瞳は、いつものように大きく、潤み揺れていた。まるでその瞳にはこの薄汚れた星空が、綺麗な宝石のように映し出されているのではないかと思う程鮮やかだった。まだ吐く息の白い3月、総悟も俺もコートの襟に首を埋めじっとただ歩き続けるしかない。

「じゃあなに、お前星になりてーの?」

総悟の中でこの話がもう既に終わっているのなら、俺のこの質問は痛い意外の何物でもないわけで、馬鹿にされると少し身構えた。しかし帰ってきたのは余りにも真面目な声色の総悟の声。

「なりたくても、なれねーもんもあるでしょう」
「つまりなりてえのか」
「なれるもんならねィ」

不思議、その一言に尽きる。総悟のまだ18という若さに相反する、死への覚悟や人を殺すという重さは確かに俺達の、俺と近藤さんのせいだ。それでも総悟がそんな強さを享受していることも、そのことについて謝罪されるのも大嫌いなことも知っていた。だからこそ、総悟がこんな死への美学を語るなんて普段なら想像し得ないことなのだ。

「俺は別にね、土方さん。綺麗に死にてえとか人並みに穏やかに死にてえとかそんなこと望んでるんじゃないんでさァ」
「まあ、だろうな」
「ついでに言えば死人が星になって見守ってるなんてお伽話も信じちゃいやせん」
「…そんなもん、残った奴の気休めでしかねーからな」
「それでも俺はね」

「俺は星になったと信じてくれるような人が居る、そんなふうになりたいんでさァ」

それはあまりに綺麗事で、俺達にとってあまりにも不可能に近い望みだった。きっとそんなこと総悟も分かっている。

「例えば明日俺が死んだとして、近藤さんや土方さんは俺は星になったなんて口が裂けても言わねえでしょう」
「ああ」
「でももっと俺のことなにも知らないような、それでいて俺のことをきちんと好きでいてくれる奴なら俺が星になったと言ってくれるかもしれない」
「じゃあ別になれねーこともねえんじゃねえのか」
「ほう、そう思いますかィ?」
「お前次第だろ、そんなの」

例えば総悟が血生臭い自分の生業をひた隠しにして誰かを愛したとしたら、それは叶うのだろうか。例えばこの世界が何もせずとも平和で誰もが剣を握らないようになれば、それは叶うのだろうか。そんな夢物語ないと分かっていてそれでも総悟がそれを望むなら、

「俺次第とは、また無責任なこと言いやすね」
「無責任ってなんだよ」
「俺次第じゃねえ、あいつ次第だ」
「…ふん」
「惚気です」
「わかってら」

惚気だと、笑うこいつが彼女にそんなこと話すつもりがないのは分かっている。下手なことがない限り彼女はきっと総悟より長く生きて行くだろう。そしてこいつの死が、仕方ない事だとか当然の報いだ、と簡単に片付けられ忘れられていくのを目の当たりにしなくてはならないかもしれない。それでも彼女が総悟は、星になったなんて優しい嘘を信じることができるのだろうか。彼女の中でそんな優しい嘘を作り出す事ができるのだろうか。

「やっぱりお前次第なんじゃねえの」
「今からそういう従順な女にしとけと?」
「…まあ、程々にな」
「程々に、ができたら俺ァこんなになってやせんぜ」
「自覚あんのか」
「まあ、大人になりやしたから」
「はっ、嘘つけ」
「少なくとももう副長になれるくらいには立派になりやしたよ」
「黙れ、叩き斬るぞ」
「もう土方さんもお歳ですし、若い俺に譲ったらどうでィ」
「まだ三十路前だっつーの!」

まだまだこいつは呆れるほど若いと思う。たかが恋一つでこれ程悩んでしまうのだから。しかし、そう言ったらうちの馬鹿な局長も恋一つに散々痛い目を見て散々悩んでいるではないか。どこかの馬鹿な男も周りを散々巻き込んで叶わない初恋に、想いを馳せた時期もあった。なんて青臭い。

「あー」
「あ?」
「流れ星」
「お前目いいな」
「土方さんより若いんで」
「しっつけーんだよ」
「せいぜい星になれるようにお願いしときやす、土方さんが」
「縁起悪いこと言わないでくれる?」

流れ星を探す総悟に合わせて上を見れば、薄汚れたこの町の星空が、こぼれ落ちそうな程の星を湛えていた。俺達が人を斬る度に数え切れない星にまた名前がつくのだろう。誰もが望まずともできる事を、これ程切に願って生きて行く馬鹿な男達の帰る場所は、もはやこの薄汚れた星空の元のこの町でしかない。

「ま、なんにせよまだ死ぬ予定はありやせん」
「来週だっけか、爆破予告」
「めんどくせーなー」
「ほんとにな」

その前に一回会いに行っといてやれよ、と言えば羨ましいだろ土方と小憎たらしい台詞が返ってきた。今日も江戸は呆れるほど平和であった。








▼一応エイプリルフール作品でした。二人が恋ばなするなんて、嘘だありえない!っていう。嘘です。嘘に絡めた話にするつもりがこんなになりました。沖田君に彼女が居るというのは嘘でしたーということではないです、多分。お粗末様でした!



 



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