未だに罪悪感に苛まれる。男に抱かれる事への背徳感とか、そんなものよりただひたすら罪悪感に押し潰されそうになる。夜な夜な電気を消した真っ暗な部屋の布団の上で、身体に染み付いた男の感触が嫌という程俺を侵食する。そしてまた沸き上がる罪悪感を消してほしくて、俺はあいつの所に出向く。なんて負の連鎖。

「…万事屋」
「もう一回はしないよ?もう寝るって言ったのは土方君だからね」
「なんも言ってねえだろ、黙って寝てろ」
「ほんっとに我が儘だなお前」

拗ねたようにこちらを向いていた銀髪がくるりと向こうを向いた。やけに大きく見える背中が規則正しく上下するのが、早く寝ろと急かされているようで気分が悪い。自分がつけた爪の跡がひどく生々しく赤く、白い背中を裂いていた。

「万事屋」
「…」
「…万事屋」
「…」
「…坂田」
「…なに」
「…坂田」
「なんだよ」

めんどくせえな、賢者タイムって知ってる?そう言いながらこちらを向いた赤い眼に視線を捕まえられる。

「なんか、どうしたのお前」
「なにが」
「やけに甘えてくるっつーか」
「甘えてねえよ天パ」
「甘えるっつーか、なに、寂しいの?」
「は…」
「ああ…そうか」
「何一人で納得してんだよ」
「…いや、早く寝ろよ」
「んだよ、胸糞悪い」

一人納得したように頷きながらまた赤い眼が閉じられる。筋肉質な腕がさっきまで自分を抱いていたかと思うとまた、あの罪悪感が押し寄せる。頼むから消してほしい、これを。

「お前明日休みだろ」
「なんで知ってんだ」
「…男の勘」
「アホくせえ、そうだよ」
「命日、だもんな」
「…ああ」
「うん、なんつーか、おやすみ」
「…ああ」

命日
それがこいつにとってどんな意味を持つ日なのか俺は知らない。知らないし、分かりたくもないし、第一意味を持つのかすら危うい関係だと思う。俺達は。

俺は彼女が大事で、大事だからこそ手放した。青臭いだとか自己満足だとかはもう散々自分で思った事だけれど、あの選択を今でも間違ったと思ったことはない。ただ呪文の様に俺はいつ死ぬか分からない身なんだと繰り返しては大切な物を切り捨ててきた。
だから本当はこんな関係間違っているのに、こんな気持ちは間違っているのに。どうして今回ばかりは俺もこんなに執着するのかがわからない。

「…なあ」
「っるせえな…何回喋りゃ気が済むんだよ」
「…お前は、ずっと」

居なくならないのか?
思わず言いかけて口をつぐんだ。そんな事が聞きたいんじゃない。いつ居なくなるかなんてそんなの誰だって分からない。真撰組だからとか、万事屋だからとか、関係なく。明日俺は無事で、一見平和そうな団子屋の店主が死ぬかもしれない。そんなもんだ。だからずっと此処に居てくれるかなんて聞きたい訳でも、望んでいる訳でもない。

「ただ、約束とかはできねえから。俺も、お前も」
「…そうだね」
「でも、約束ができるなら明日も明後日も、俺は此処に居たいと思うと思う」
「…なんつーか、お前時々すげえ事言うよな」
「なにがだよ」
「今流行りのツンデレ?」
「古くねえか」

誰も何年も何十年も先の事を約束したい訳じゃない。そうじゃなくて、望むのは明日の朝も横にある存在であって、不確かな言葉よりそちらの方がよっぽど。ずっと此処に居てほしいのと、ずっと此処に居てくれと約束することはイコールではないのだ。それがまだ、あの頃の俺には分からなかった。

「じゃあ、もう一つ言うこと聞けよ」
「なに?もう1ラウンド?」
「背中に、腕」
「…うっわ」
「ひいてんじゃねえ」
「驚いただけだけど」

いつもは容赦なく巻き付いてくる腕が、そろりと背中を這った。まただこの気持ち、罪悪感とよく似たこの気持ち。消してほしくてこいつに近付けば近付く程濃く染み付いていく。

「ほんとに寝る、おやすみ」
「おーおー寝てくれ」
「明日は休みだから、午前はダラダラする」
「おーおーそうしろ」
「だから、俺が起きるまでこのままにしとけ」
「はいはい、おやすみ」

俺は今でもあの選択を間違ったとは思わない。彼女を手放したことを間違ったとは思わない。ただきっと、何か一言あげられていたら、何か一つあげられていたら彼女はもっと幸せだったんじゃないかと、自惚れるようになった。彼女が幸せじゃなかったなどとは思わないけれど、そう思うようになったのは強欲なそれでいて無欲なこの男のせいだ。
起きた時にきっと背中にまわされているであろう腕を望むようになった自分も、随分強欲になったものだ。




(明日のことは分からない、だからぎゅっとしててね。ぎゅっとしててね、ダーリン)








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