銀ちゃん
銀ちゃん
銀ちゃん

少女の声で意識の淵から引きずり上げられる


「銀ちゃ…「うっせえええええ!なんだよ、腹減ったのか!?」

「…眠れないアル」

「はあ?またかよ…」

「ねえ銀ちゃん眠れないアルヨ」

「ああ…?まあ明日は仕事ねーし夜更かししてりゃあいいんじゃねえ?」

「嫌アル…」

「んだよ、めんどくせーなオイ…ってお前」

月明かりでいつにも増して白く見える肌に
真っ青な日本には似合わない瞳が涙に揺れている

女の涙は武器なのよ
なんてどこかの馬鹿力のゴリラ女が言っていたような気がする
だけどこのわずか齢14程度の少女の涙など武器どころか、見ていて居心地悪くなるばかりだ

「…怖え夢でも見たか」

「…」

「…ゴキブリでも出たか」

「…」

「んだよ…ホームシックかあ?」

「違うアル!違うアルヨ…」

母親の、父親の、兄の、故郷の、我が家の、
匂いが恋しくならないのだろうか
母親にはもう会えなくても、兄とはすぐに解り合えなくても
抱きしめてくれる人が、自分を見つけてくれる人がこの子には居るのに

ここに
俺と、新八と、江戸の奴らの勝手で縛り付けておいていいのだろうかと思ってしまう

「どうした、神楽」

「銀ちゃん…私たちは何アルか」

「あ?」

「友達は、例えば私とよっちゃんとか、銀ちゃんとヅラみたいなものネ」

「ヅラとは友達じゃねーがな」

「恋人は…昼ドラ見てれば分かるネ」

「あれ恋人っていうか愛人の方が多くない?そんな間違った恋愛覚えちゃいけません」

「でも私たちどれでもないヨ!!じゃあ、か…」

「家族か、ってか?」

何かいいたげな瞳が揺れる
なんとなく、恐れていた質問だった
どう答えたらいいかわからなくて、どう答えても誰かが傷付きそうで
この甘ったるい関係に僅かなズレが生まれそうで
答えが、答えた俺自身を蝕んで行きそうで
恐れていたのに

「…自販機、行くぞ。あったけえもんでも飲んで寝ろ」

「…」

「早く立て、寒ぃからなんか羽織れよ。あと靴下ちゃんと履けよ」

「…なんか…パピーみたいアル」

「まだそんなに老けちゃいねーよ」

小さなこの少女の抱える孤独や、独占欲や、渇望を、少しでも代わりに背負ってやりたい
いくら力は男の何倍あろうが、まだ小さな小さな小さな小さなこの掌に掬える物などごくわずかなのだから
これからたくさんたくさん、素敵な思い出を、恋を、夢を掬わなくてはいけないのに
それを俺達をつなぎ止める為だけなんかに使わせてはいけないのだ

君がぎゅっと、精一杯俺達をつかまえなくても
ちゃんと此処に居る、いつだって隣に居ると、安心をあげなくてはいけない

家族なんかじゃなくても
いつだって、安心は此処にあると

「朝には新八の朝飯食えるから、コンビニは無しな」

「…しょうがないから我慢するネ」

いつだって帰りを待っていてくれる人が居るこの気持ちを
それがなにより手に入れるのが難しいか

俺達は家族じゃないけれど
家族って俺達の様な物だと
暖かいコーンポタージュでも飲みながらゆっくり伝えてやろう

思春期の君にはまだ難しいだろうか



 




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