「暑いアル…」

熱っぽい声が万事屋に響く
男二人はまるで我慢くらべの様に口にしなかったその言葉を、目に優しくない真っ赤なチャイナ服を着た少女が口にした

「うるせえな…暑いって言うからあちーんだよアホ」

「銀ちゃんの天パがむさ苦しくて余計暑くなるネ、銀ちゃん散髪して来てヨ」

「あんだとコラ、おめーみたいなサラサラストレートには天パの苦しみがわかんねーんだよ!大体神楽、お前こそ暑苦しい真っ赤なチャイナ服なんか着てんじゃねーぞ」

「これは私のチャームポイントネ!」

「じゃあ銀さんの天パだってチャームポイントですう」

「そんな小汚ねえチャームポイントあるかよ、捨ててくるヨロシ」

「てめっ、それはあんまりだろ!」

「ぎゃあぎゃあうっさいんですよアンタ達は!室温があがるでしょーが!」

母ちゃん
ではないけどまるで母ちゃんのような眼鏡に一喝され
万事屋はしん、と水を打ったように静まり返る

「…水?」

「…なんですか銀さん」

「そうだよ水浴びすりゃいーんだよ」

「はあ?水浴びったってどこで…」

「なにそれ面白そうアル!やるネ!」

「おら、そうと決まればあれだ。新八、ババアからホース借りて来い。なげーやつな」

「ちょっ、銀さん水浴びってどこで」

「ああ?外に決まってんだろ、そ・と!」

あ、こいつはしゃいでやがると思った
いや、だっていつもは死んでる目がちょっと輝いてたもの
いい年した上司が水浴びなんかではしゃぐのもどうかとは思うけど、十六にもなってオッサンとガキとの水浴びを楽しそうと思ってしまう自分も自分だ

「新八ーぼーっとしてないで早くするアル」

「新八ーついでに冷蔵庫から氷持って来てー、食うから」

玄関から二人の声がする
そういえば水浴びは外の道路でするのかな
また苦情が来ちゃうな
でも今日くらいハメはずすのもありだよね、
なんて思いながら、声のするほうへ袴の裾をぎゅっとたくしあげて走り出す

あんなクーラーも買えないようなオッサンと
クーラーも買えないくらい嵩む食費の原因を作っているガキが

キラキラキラキラ
この世の宝物のように輝いて見えるのは、夏の暑さにほだされただけだ




 



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