※バラガキ篇後



言うなればそれは、クルッと形容するのがピッタリな程見事な踵の返しっぷりだった。ちょっとそれはヒドイんじゃない、なんて思って後から名前を呼べば、鬼の副長土方十四郎は、いかにも鬼のように眉間に皺をよせた。

「なんだよ、俺はお前と違って忙しいんだよ」
「嘘つけー」
「ナメてんのかお前!こっちはお前みてーな酔っ払いが悪さしてねえか見回りしてんだ」
「残念ながら銀さんまだ一滴も呑んでません」
「残念でもなんでもねーから早く家帰れ、邪魔」
「その家から鍋の材料買い足しに行けって追い出されたとこなんだよ」

そう言うとふいに相手の言葉が途切れた。何かを疑うような、探るようなそんな瞳で土方が見てくる。おうおう、俺も随分疑われるようになったもんだ。

「爆破テロの予告だ」
「…ふーん、今日?」
「ああ、新年と同時にターミナルを爆破するんだと」
「それで私服で見回り」
「パトカーや隊服だと刺激するからな」
「へえ、ご苦労なこった」

だから、早く帰れ
そう言いたげな土方が煙草に火をつけた。鬼の副長が犯人となりうる奴とこんなに簡単に接触していいのだろうか。
俺が白夜叉と呼ばれていたことをこいつらはもう知っていて、桂なんかと親しいのも知っていて、何故こんなにも無条件に親交を持つのか。

「いや、持ちたくて持ってんじゃねーのか」
「なんの話だ」
「親交?」
「はっ、お前らなんかと親交なんざ」
「こっちから願い下げだ税金ドロボー」
「それ俺の台詞」

馬鹿だよなあこいつ、てかこいつら
どうせ白夜叉なんて何か少しでも怪しい動きをしたらすぐしょっぴけるのに、何か不審な点を探そうと思えばすぐできるだろうに。
それをしないのは、それをしないのは

「なあ、土方」
「あ?」
「お前、綺麗になりてえの?」
「…なんの話だ」
「汚い自分の組織は嫌なのか」
「…人斬る組織に綺麗も汚いもねーだろ」

そう考えたら、倒幕だって佐幕だって汚いのだ。
それ以前に綺麗なんて事が有り得なくて、それゆえ汚いなんて概念もない。ただただ自分の感性に従って、少しでも大将が納得する方に歩を進めるしかない。
そんな時代が、俺にもあった。今もそうだ。

「俺、本当に鍋の材料買い足しに行くだけなんだけどさ」 
「ああ、分かってる」
「…あっそう、じゃあせいぜいあけおめと同時に死なねーように頑張れよ」
「随分めでてーなそりゃ」

馬鹿だよなこいつら真撰組は。
俺は白夜叉だったんだ、俺はまだ攘夷志士であってもおかしくないんだ。なのにこうやって早く家に帰したがる、疑いたくないんだろ俺を、捕まえたくないんだろ俺を、揺らがせたくないんだろこの関係を、時代を。

綺麗になりたいのは俺の方だ。こうやって相手を信じたくて疑うんだ。
白夜叉ではなく、坂田銀時を認められたくってわざわざ背を向けたこいつに話し掛けたんだ。

「お前本当に馬鹿だな」
「なに土方君反抗期?」
「白夜叉が買い出しなんざ笑わせらあ」
「いいだろ、庶民ぽくて」
「お前は庶民の中の底辺だろ、仕事しろ」
「新年からうぜーな鬼の副長は」
「馬鹿な話してる暇はねえ、じゃあな」
「おう、よいお年を」
「はあ?お前によいお年を願われる義理なんかねーよ」
「はいはい」

12月31日10時08分
新年まであと1時間52分
爆破まであと1時間52分

白い息を吐きながら、いつも通り隊服でもないのに黒い土方君が歩いて行った。
そういやあいつ、黒とか紺とかそんな色の着流ししか着ねえよな。きっとあれだな。土方君は、誰よりも大将を汚したくなくてただ、それには自分が汚れればいいと思ってる。馬鹿なんだな、馬鹿正直。それゆえどこまでも綺麗な、黒。

「お、銀さん!ちょっと呑んでかない?」
「すまねーな、俺買い出し中なんだ。また来年な」
「そうかいそうかい、じゃあな、よいお年を」
「ああ、長谷川さんもな」

来年もせいぜい、真撰組にしょっぴかれない様にだけ気をつけて生きて行かなければならない。
仕事は、再来年からでいいか。




 



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