例えば土方さんは俺が居なくなった時、この上なく悔しそうな悲しそうな顔をするのだろう。だって俺はこの人が誰より優しくて、誰より俺のことを弟のように好いているのを知っている。

例えば土方さんは近藤さんが居なくなった時、この上なく切なくて、生きていく目標を失った様な顔をするのだろう。自分を人としてくれた、この懐の深い男を誰よりも尊敬し、慕い、憧れ、愛しているのだから。そしてそれは、俺も同じであろう。

じゃあ土方さん、土方さんが居なくなったら俺はどんな顔をしたらいいんだろうか。土方さんとはなかなか良い思い出がない。出会いから、共に戦ったことから、一緒に飯食ったことまで何一つ一悶着なく落ち着いて過ごせたことなんかあっただろうか。

「ねぇ、土方さん」
「なんだ、今忙しいんだ」
「トモエちゃんの限定フィギュアオークションに?」
「ちっげーから!このクソ忙しい時に変な奴呼び覚まそうとすんな!」
「そうカリカリしねえでくだせェ、今日は質問に来ただけでさァ」
「言っとっけど俺は塾長でも赤ペン先生でもねえからな!余計なこと聞くなよ!」
「ヘイヘイ、土方さん俺達って仲悪いですよねィ?」
「え、なに?お前わざわざそれ聞きに来たの?嘘だろ?」
「いやガチですけど」
「信じらんねっ…つかそんな質問してくる時点で仲良い訳ねーだろアホか!」
「わかってまさァ!ただ確認しにきただけです」

イライラさが増したようにタバコをくわえる。何も言わずに書類と向かい合ってしまった。怒らせてしまったらしい、それか拗ねてしまったか。

(結構、ナーバスだよな土方さんて)

そのまま土方さんの後に寝転がるとアイマスクを装備した。だだっ広い副長室で寝るなんてなかなかない。しかも土方さんは怒らないし。しばらくしても一向に怒る気配を見せない土方さんのせいで本格的に眠くなってしまった。

「げっ、てめえなにガチ寝してやがる」

土方さんに爪先でげし、と蹴られる。いつもなら有無を言わさずバズーカでもぶっ放しているところだが今日はどうも起きる気にならなかった。

「ったく…寝顔はまだまだガキじゃねーかこのクソガキ」

本当に寝てると思ったのか、いつもの仕返しと言わんばかりに糞意地の悪い事を言うが、どうにも言葉に覇気がないというか。まったく

(悪意がねえな、この人)

どうせ土方さんは俺と近藤さんのことは比べられないんだろう。土方さんのなかでの存在価値は、真撰組の中での存在価値は、きっと分かっているのだろうに。優し過ぎるこいつのどこが鬼の副長なんだか。俺は土方さんが死んでもきっと泣けやしないだろう、ただきっと次の日から

「サボらなくなりまさァ」
「あ?起きたのかよ」
「起きちゃ悪ィですかィ」
「悪かねーよ、仕事しろ」
「土方さんが死んだら仕事しまさァ」
「なにその交換条件!?」

こんなおもしろい人が側に居るのに、仕事なんかしてる場合じゃあないだろう。なあ、土方さん。



(およ、トシの部屋でなにしてんの総悟)
(近藤さん聞いてくだせえよ、土方さんが俺のことクソガキとか言うんですぜィ)
(なにお前そこから起きてたの!?)
(全く仲良しだなあ、ホラ!とっつぁんに饅頭もらったから3人で食べよ!)
(このヤニ臭い部屋でですかィ)
(縁側行けよ!)
(トシも行くんだよ、ほら!)





 



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