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ふむ、と微かに頷いて蕗口はもう一口お茶を口に含む。ごくんと喉が上下する様子を見届けていると、物欲しそうに見えたのかペットボトルを差し出された。首を振って返事を待つ。

「まあね、知らないフリしとけば俺の悪事も無かったことにできたのかもしんねーけど。アンタに礼言いたかったんだよね」

「……礼?」

予想し得るとこから一番遠い単語が出てきて、おうむ返しするしかなかった。礼って、感謝って意味で合ってる?一体なにに。

「俺のことチクんなかったろ。それにあの先輩、俺の親戚でさ。良いように使われるとこで、アンタのおかげで1ヶ月の自由を得たってわけ」

弱みでも握られているのかと思ったら、そういうことだったのか。他人より繋がりが多い分、逃げ出しにくいだろう。困ったな、そんなことを言われたら益々蕗口を責められない。

「アンタには悪いことしたとは思ってる。信じないだろうけど、あれ以上続くなら邪魔しようかと思ってた」

俺の腕を引いた時、葉桜の姿を見ていたらしい。助けが来ることを分かった上で、先輩に手を貸したと。「もう大丈夫」の意味が分かった気がした。
ふ、と息を吐く。俺たちをよそに、バス内でカラオケ大会が始まろうとしていた。歌が得意な誰かが流行りの曲を選んで一気に湧く。

「分かった、あれは忘れよう」

「そう言うと思った」

にっこりと、蕗口は笑い、一言付け足した。

「俺アンタのこと好きかも」

嘘をテーマにしたアップテンポな曲がバスに流れ始めた。





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