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キャンプの日がとうとう来た。

「堰侑哉くんって言うんだねー。侑哉って呼んで良い?俺蕗口要(ふきぐちかなめ)よろしくねー」

バスの中で初めましてかのように挨拶する隣の蕗口への対応に早くも困っている。無かったことにしたいのか、忘れてしまったのか、単純に気づいていないのか。あの時はほとんど眼鏡もずれて髪も乱れていたから、あり得るかもしれない。

「よろしく」

「……ねえ俺腹壊しててさ、トイレ近い方が嬉しいんだけど代わってもらえない?」

割り当てられた座席は俺が通路側で蕗口が窓側だった。特にこだわりもないのでいいよと返して席を立つ。

「助かる〜」

にこにこ笑う蕗口と入れ替わって窓側に座ると、バスがゆっくりと発車しだした。

「気づいてるよね?」

出発に湧き立つ車内で、ひどく冷静な声にぞわっと鳥肌が立った。わざと気づいていない振りをしていたのか。隣を見ると口角を上げたまま、目も細められてはいるのに笑っていない。

「なんで……」

「あんなことがあったのに無防備過ぎない?」

手首に触れられて、動揺して仰け反り軽く頭をぶつけた。

「大丈夫〜?はしゃぎ過ぎじゃん」

音が響いた周りの座席に向けて少し大きめの声で、心配する振りをする蕗口。笑うことも怒ることもできずに俺は彼を凝視した。
バスはどんどん学校から離れて行く。





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