「その制服、ハク女でしょ?」
「残念だけど校舎はもう入れないよ」
「連絡先交換しよ」
口々に話しかけられても答えられずにいると先輩たちが目線を合わせようと屈む。西陽が直撃して、ウィッグでこもった熱と相まってくらくらしてくる。動悸がする。早く保健室に行かなければ。
額から流れた汗を条件反射で手の甲で拭いながら逃げ道を探して視線をさまよわせた先で、長身がこちらに近づいているのに気づく。知っている顔だ。助けを求めようか迷って、つい目を逸らしてしまった。この姿を見られたくなかった。
「俺たち怖くないよ」
「手貸そうか?」
ぬっと目の前に手が差し出されて、必要以上に体が震えた時、図上に影が落ちた。
「十分怖いっすよ先輩」
……目を逸らしたのに、気づいて助けに来てくれたんだ。
「なんだ1年、この子と知り合いか?」
「知り合いっつーか、大事な人なんで、手出さないでください」
先輩の手を押しやった彼は、たぶん自分が着ていたシャツを脱いで、肌けた俺の足元を覆うようにかけてくれる。
「待てよ、お前蕗口じゃん!」
一瞬ひやっとした空気が流れたけれど、先輩の1人がふと彼の名を言うと、すぐに変わるのが分かった。
「そうです、わあ、知っててもらって嬉しいな」
「……これは分がわりーわ。行こうぜ」
「怖がらせて悪かったな」
肯定の言葉にあっさり立ち上がると、先輩たちはそそくさと離れて行った。