「可愛くない……?」
「えっ、女の子じゃないの?」
「かわいー!」
「誰?!」
「こっち向いて!」
さっきまで無反応だったのに、急にたくさん声をかけられてびっくりした。みんな当然のような流れで携帯を取り出しカメラを向けてくる。
「おーっと想定外の可憐さに会場が湧いた!」
固まっていた司会の言葉で熱気が出た。俺だと気づかれたらどうしよう。不安が押し寄せて息が上がって、退場まで進行を待っていられなくて、お辞儀をするとステージから勝手にはけた。待ってた先輩が来る時と同じようにタオルをかけてくれる。何か言っている気がするけれど、周囲の視線がこちらに向いているように思えて怖くて、奥に行けば逃げられないと感じ、そこから離れなければ、と着替えもしないままで飛び出した。
このままじゃ寮にも戻れない。着替えもないし、保健室に行くしかない。先生なら助けてくれる。
タオルを深く被って俯き気味に保健室を目指す間も視線が怖くて、できるだけ人から離れて歩く。そうしていると曲がり角で思い切り何かに肩をぶつけて、衝撃で尻餅をついてしまった。
「いってー……」
声にはっとして顔を上げると知らない3年の先輩だった。
「すみま……」
「おっ、可愛いじゃん、大丈夫?1人?」
コンテストの観覧者ではなかったようで俺を女の子だと思ったのか、謝罪を言い終わる前に言葉を被せられる。連れも合わせて3人にぐるっと囲まれて、どう逃げたら良いのか頭が回らなくなった。