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暗い気持ちのまま言われた通り中庭に出た。既に結構人が集まっていて回れ右しそうになったけれど、俺を待ってたらしい先輩とばっちり目が合ったので歩み寄るしかなかった。

「来ました……」

「待ってた!手伝ってほしいのはこっち」

先輩は俺の腕を掴むと、ステージ裏のいくつか並んだ簡易テントへ早足で向かう。たぶん着替えや待機用なんだろう。その中でも一番奥に通されて、そこには他の人が居なかった。この言動からは俺が参加者だと分からないように、という配慮が感じられて少しだけほっとした。

「来てくれて良かった!まじで感謝!それで悪いけどちょっと急いでてすぐ準備してもらいたい」

テントに入り込むなり深々と頭を下げたかと思うと返事をする暇も与えない切り替えの早さで顔を上げ、見張っておくから終わったら声かけて、とすぐに先輩は出て行った。あっけに取られつつも、必要な物はそこと言われた辺りを見てみる。
テントの骨組みにハンガーで引っ掛けてあった衣装は、真っ白なブラウスにお腹の位置にベルトが付いた薄いブルーグレーのワンピース。間違ってなければ有名なお嬢様系女子校の制服だ。どうやって用意したんだろう。あとは靴下とウィッグと鞄。さすがに靴はなかった。
ワンピースに戸惑いながらなんとか着替えて、腰ぐらいの長さの淡い茶色のウィッグを被る。ウィッグの被り方なんて分からないからほとんど載っけただけだけど、鏡で確認したかぎりたぶん大丈夫だろう。眼鏡とマスクを外して、念のためポケットに入れると外へ声をかける。意気揚々とこちらを振り返った先輩はすぐさま顔を覆った。

「えっ、かわい。見立て通りで泣きそう」

「な、泣かないでくださいね」





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bkm







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