「女装コン出てください!」
「え、嫌です」
即答すると、先輩はこの世の終わりのような顔で固まってしまった。頭が真っ白になったみたい。そこまでショックを受けるなんて素直に諦めてはくれなそう。
「そもそもエントリーは締め切っているのでは」
「飛び入り大歓迎だからぜひ!」
「嫌です、ごめんなさい」
手続き的に難しいのではないかとつついてみたものの、そんなことはなかった。女装というからには身一つでどうにかなるものでもないだろうに、この様子だと予定より参加人数が少なかったのかな。その考えを肯定するように先輩は頭を抱えて説明し始めた。
「盛り上がると思って俺が発案したんだ。けど女子ウケ気にしてかあんま参加者増えなくて、このままじゃコケそう」
「なるほど」
「そもそも君のことは風呂で顔見てから絶対声かけようと思ってたんだけど、あの時宗弥にガン飛ばされてさあ……その後も大体ずっと一緒に居るし」
気分が悪かったからよくは覚えていないけれど、あの時言い合うような声が聞こえた気がしたのはそういうことだったのか。
「抵抗あるなら名前も所属も伏せて良いし、喋らなくても良いから同寮の先輩を助けると思ってなんとか……!」
先輩はついに泣きそうになりながら土下座した。その瞬間、第二部終了のアナウンスが校内放送で流れる。片付けが始まってしまう。こんな姿見られたら変な噂が立つかもしれない。
「先輩困ります!」
「そこをなんとか!」
顔を上げる様子のない先輩に焦った俺は、つい「分かりました」と口走ってしまった。