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「桐嶋大丈夫?」

「む、無理……」

堪える桐嶋に声をかけてみたけれど、雰囲気を壊さないように頑張ってるらしくて震えている。ドリンクが運ばれるまでにおさまるかな。おぼっちゃまが相当効いてしまっていて難しいかもしれない。時間制限があるのでそもそも長居はできないけれど、早目に出ることも考えないと。
ところで健助はどこだろう。早く出るにしてもせっかくだから顔を見てからにしたい。周りを見渡しても今接客中の執事の中には居ないようだった。すごく嫌がっていたし、ドリンクを入れたりする裏方かな。

「あ」

仕切りの方を見た時ちょうどそこから出てきた、顔が分からない彼。シルクハットのつばの部分からベールのような黒い布が上手く垂れている。きっと健助だ。
異質な姿に蕗口とは違った視線を集めながら、トレイを持ってこちらに向かって来る。途中スマートフォンのカメラを向けた女の人に「困ります、ご主人様」の一言で悲鳴を上げられていた。声が良いから仕方ない。

「お待たせいたしました、ご主人様」

「ありがとう。ご主人様で統一してるんだ?」

ドリンクを置きながら健助は頷く。あんまりバリュエーションを増やさないようにしているのかな。

「それ良くできてるね」

ベールを考えたのは蕗口かな。フードだと雰囲気に合わないけれど、これならむしろミステリアスな感じが出てて良いかも。萩の寮長がとても喜びそう。

「変か?」

「似合ってる」

「ありがとう、良い時間を、俺のご主人様」

お辞儀をするとベールから少し顎のラインが出て、周囲から息を呑む気配がした。





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bkm







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