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「聞き捨てならないな」

真後ろから声がして振り返る。健助と同じく次が出番のはずの蕗口だ。招集されているけど大丈夫?と聞く間もなく、肩を組んできてまだ行かないと意思表示される。

「寮ではいつも一緒なんだから譲ってくれても良くない?」

冗談ぽいものの、後頭部からの声は不満が滲んでいる。クラスも寮も違うので、確かに健助と比べたら一緒に過ごす時間は少ないけれど。

「俺だって侑哉に俺だけ見ててほしい」

困ったな。歳の近い兄弟を子供にもつ親の行事参加って、こんな気分なのかもしれない。どっちも見たいんだけど体は一つしかないし、2つの目はばらばらの方向を見ることができない。

「……なんて、俺はわがまま言わないから最初か最後だけでも見てよ」

なにも答えられないでいると、蕗口は少し寂しそうに言い残して小走りで入場口へ向かって行った。離れる前にこめかみの辺りに柔らかい感触がしたけれど気のせいかな。
わがままだとは思わないし、特に健助がああいうことを言うのは珍しいから見ててあげたいけれど、やっぱりそれぞれをずっと見てるのは物理的に不可能だ。いっそ2人とも見ない、なんてわけにもいかないしなあ。自席に戻りながらため息がもれた。
しばらくして応援合戦のアナウンスが流れ、入場口から一斉に走ってきた応援団が中央で学年ごとに3方向に向かう。衣装は3年生が和装、2年生はカッターシャツに羽織り、学ランと聞いていた1年生は長ラン。
目の前に、健助と蕗口が立った。





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