確かに想定よりずっとノックの仕方が乱暴ではなかったし、随分早いと思った。そこに立っていたのは野中先輩だった。
どうして？の問いに、先輩は不思議そうに首を傾げる。

「俺じゃない誰か来る予定だった？」

「どういうことだ？先輩？」

いつもの調子の先輩に比べ、背後から投げられた健助の声が随分トゲを含んで聞こえた。先輩も同じように感じたらしい。少し焦ったような声になった。

「え？なに？なんなの？この剣呑な感じ。俺なんかまずい時に来た？」

その先輩の慌てた反応で、全員が「ハテナ」状態になってしまった。どうにも噛み合ってない。まさかと思い、落ち着いて確認をとる。

「先輩、用件を聞いてもいいですか」

「勉強会の件だけど……」

早とちりしてしまった。緊張し過ぎていたみたい。迎えではなかったことに一安心しつつ、すみません、と先輩に頭を下げた。

「勘違いでした」

「いや、俺は良いけど……大丈夫？」

電話の件を言っても良いのか迷って、結局頷いた。野中先輩は何か言いたげだけど、食堂でのことを思い出すと言うとしたら少なくとも根津先輩に相談してからの方が良いだろう。

「ところで勉強会の件って……？」

「ああ、なんか今日はやらないって。蕗口くんから聞いた？」

「はい」

「３人なら寮の部屋でも事足りるから、良ければ教えようかと思って」

ありがたい申し出に、健助と顔を見合わせた。勉強ももちろん大事だけど、今は先に対策を立てておきたい。

「折角ですが用事ができたので……」

「そう？必要になったらいつでも声かけてくれて良いよ」

「ありがとうございます。ところでいつ蕗口に会ったんですか？」