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07

 人は、生まれながらにして平等ではない。
 生まれた家、親となる人、受け継がれる個性、育つ環境。
 どれも子どもに選ぶ権利などなく、ただ残酷に現実を突きつけるのである。
 両親もまた、そうであった。

「いいかい、よく聞くんだ」

 初めて『個性』を発現させた時、父は険しい表情を浮かべていた。
「その力は決して人前で使ってはいけないよ。『個性』について話すのも駄目だ。これからは『無個性』のフリをしなさい。でないと、悪い人達に目をつけられるかもしれない。……お前も、怖い思いはしたくないだろう?」
 父は淡々とそう言い聞かせて、いつも個性を使わせようとはしなかった。話題にも出させず、テレビで流れるヒーローのニュースすら聞かせようとしなかった。
 ──周りにいる子ども達は発現した己の力を自慢げに披露しているのに、自分だけが許されない。
 ──みんなが憧れの眼差しでヒーローを見つめているのに、自分だけがその輪に入れない。
 当然、子どもながらに不満はあった。
 個性を持っていても教えられないと言えば、大体の大人は事情があるのだと理解してくれる。
 でも、子ども達は違う。彼らからすれば、見ることができないのなら、最初から無いも同然だ。仲良くしている相手に秘密にされることも不快な気持ちになるのだろう。それを理由に虐められることが何度もあった。

 ──『個性』がなければ、仲間に入れてもらえない。
 ──『個性』のない人間は、『人』としても扱われない。

 その窮屈な環境が、佐鳥が生きている『世界』だった。

 だから、羨ましかった。
 だから、『自由』が欲しかった。

 だから、彼女は間違えてしまった。

「……お父さんとお母さんは、どうして嘘を吐いてるの?」

 静かに煌めく金色の瞳が。
 疑念を宿したその一言が。
 いとも簡単に『世界』を壊した。

 両親は、自分を偽っていた。
 自分は個性なんて持っていない、生まれながらの無個性だと。
 そうして、ずっとお互いを騙していたのだ。
 彼らはそれほどまでに己の『個性』を疎んでいた。

 幼い佐鳥は、二人が抱えているその闇を正しく理解できなかった。

 父は自分の『個性』が原因で、両親や他人に振り回される人生だった。多くの争いごとにも巻き込まれ、たくさんの嫌な思いをしてきた。
 故に個性を憎み、また意見の食い違いから両親との確執もかなり根深いものとなっていた。自分を無個性だと偽って母と結婚したのも、その両親の『思想』から逃れるためにしたことだった。
 これで無個性の子どもが生まれてくれれば、全てが丸く収まる。
 もし子どもに個性が発現しても、自分なら上手く誤魔化せる。
 何も知らない父は、そう甘く考えていた。
 けれど残念ながら、現実は彼の思い通りにはならなかった。

「どうして黙っていた!!」

 父は、激高した。
 佐鳥が真実を告げたことで、彼女の『個性』が自分のものではないと判明したのだ。
 父は泣きながら何度も謝る母を怒鳴り、責め立てた。
 酷い罵声を浴びせ、母を傷つけた。

 そして、その日を境に二人は互いに顔を合わせなくなった。
 秘密を抱えながらも幸せそうに笑っていた夫婦は、呆気なくも一人の子どもによってその関係を壊したのだ。

 佐鳥は、両親に目を向けられることがなくなった。
 彼女もまた、二人を見ようとすることはなかった。

 ──この子さえ、いなければ。

 ──こんな、化け物さえいなければ。

 後悔と、絶望と、憎悪。
 自分の存在を否定する声は、幼い子どもの心を壊すには、十分だった。





「オールマイトォ!!」





 遠くで聞こえる声が、その名が、心を震わせた。
 冷たい記憶の底から意識を掬い上げ、薄らと目を開く。
 布張りの天井と、場内を照らす眩しい照明。
 それから勢いよく噴射する水が見えた。

 ──いたい。
 力の入らない左腕が水面を揺蕩い、重たい体は水の中に浸っている。

 ──冷たい。
 どれぐらいそこで浮いていたのか。
 体温を奪っていく感覚に、記憶の奥底に沈めた過去の残像が蘇る。

 筒状の水槽に浮かぶ子ども達。
 窓のない暗い部屋。
 慈悲のない眼差しで自分を殺そうとする大人達。

 求めた『自由』の先に待っていた『地獄』を思い出し、改めて考えてしまう。

 この力は、本当にみんなと同じ場所を目指せるのか。
 また、疎まれやしないか。
 また、誰かを傷つけたりしないだろうか。
 人一倍努力したところで、無駄なのではないだろうか。

 ──だって、そうでしょう、こんな気味の悪い力。

 こんな、『化け物』みたいな力で。
 親にさえ疎まれるような力で。
 一体、誰を守れるというの。

 ──本当に最期まで。
 ──私は『守る立場』で居られるの。

 ぼう、と天を眺めたまま、ゆっくりと瞬きを一つ。
 天井から照らす照明の光は、とても眩しい。
 逃れるように瞳を閉じると、そのまま意識が沈んでしまいそうだった。

「諦めるか?」

 ふと、修行の時に聞いた言葉が蘇る。
 保護者であり師でもある彼は、修行の時間になるといつも以上に容赦がない。
 だから佐鳥が地面に倒れ伏すのもいつものことである。
 そんな彼女を見下ろしながら、彼は決まって同じ言葉を吐くのだ。

「私と同じ場所を目指すのなら、立て」

「恩を返したいのなら、足掻け」

「もう『時間』はないぞ」

 ──そうだ。

 強い意志が、意識を現実に引き戻す。
 開いた瞳が、金色に煌めいた。

 遠くで激しい轟音がする。
 それを耳にしながらゆっくりと自分の体を起こすと、留め具代わりにしていたブローチが壊れてマントが外れた。
 ぽちゃんと落ちたブローチの欠片を視線で追いかけていると、気絶する前のことが鮮明に思い出せた。
 あれは、デジャヴュだった。
 敵を一掃したあと、嫌な予感と背後に何者かの気配を感じ、佐鳥は振り返った。
 ぎょろりと見開かれた目。硬そうな歯と鋭い嘴。脳が剥き出しになった頭。明らかに人ではないその化け物は、夢で見たものと全くそっくりだった。
 それから自分の体に向かって素早い拳が飛んでくるのを察知した佐鳥は、咄嗟に『個性』で風を起こし跳躍して攻撃を避ける。
 だが、二度目は間に合わなかった。空中にいる佐鳥へと一瞬で間合いをつめてきた敵は、すかさず追撃の拳を繰り出してきた。
 佐鳥はすぐに左腕と棍を盾にしたが、想像もできないほど強いパワーにより広場の中心にあった噴水まで吹き飛ばされ、そのまま痛みに耐えきれず意識を失ったのだ。

「脳無、黒霧、やれ。俺は子どもをあしらう」

 ──子ども。
 その言葉を聞いた瞬間、佐鳥は『個性』を発動した。
 攻撃を受けた衝撃で解けた黒髪が白銀へと色を変え、風に靡く。
 クラクラとする朧げな視界の中で痛む体を無理やり動かしながら、満月へと姿を変えた瞳でクラスメイト達に向かう『敵連合』のボスを捉えた。
「……──ない」
 ぐっと足に力を入れて腰を浮かせる。
 そして空高く跳躍し、目にも止まらぬ速さで虚空を駆け抜けた。
 この時、自分の首から顔にかけて細く黒い紋様が浮かび上がっていることに、彼女が気づくことはなかった。


 *** *** ***


 広場で数多の敵と応戦していた相澤と佐鳥が、人工的に複数の個性を与えられ肉体強化された『改人・脳無』と呼ばれる化け物にやられた。続けて二人の戦闘を水難ゾーンから蛙吹と峰田と共に見守っていた緑谷が『敵連合』に襲われそうになったが、ピンチに駆けつけたオールマイトが相澤と三人を救い出す。
 しかし、その後の戦闘では脳無とワープの個性を持つ敵の連携により、オールマイトはバックドロップを仕掛けようとした態勢のまま捕らわれてしまった。危うくそのままワープゲートに引きずり込まれ体を半分にされてしまうところだったが、今度は彼のピンチに駆けつけた轟、爆豪、切島によってその悲劇は免れた。
「三対五だ」
「靄の弱点はかっちゃんが暴いた……!!」
「とんでもねぇ奴らだが、俺らでオールマイトのサポートすりゃ……撃退できる!!」
 一度は轟と爆豪の奇襲により、脳無を凍らせて靄を纏った男を取り押さえたが、脳無の『超回復』の個性とパワーによってその策は失敗に終わる。
 靄の男は奪取され、その拍子に狙われた爆豪を庇うべく手負いのオールマイトが再び間合いに飛び込み、脳無に立ち向かっていた。
 緑谷達はオールマイトに加勢しようと意気込んだ。
 しかし、負傷しているにも関わらずオールマイト本人がそれを許さない。
「駄目だ!! 逃げなさい!」
「……さっきのは俺がサポートに入らなきゃやばかったでしょう」
「それはそれだ轟少年!! ありがとな!! しかし大丈夫!! プロの本気を見ていなさい!!」
「オールマイト、血が……それに時間だって──」
 轟の言葉に力強い言葉を返し、緑谷には親指を立てて大丈夫だと合図する。
 ナンバーワンヒーローの後ろ姿は実に頼もしいものだ。
 それに、非常事態の時に迷っている時間などない。そうこうしている間に『敵連合』のボスが自分達を殺そうと真っ直ぐに向かってきていた。
「おい来てる、やるっきゃねえって!!」
 切島の声に、全員が身構えた。
 逃げろと言われたが、どう考えても逃げ切れる距離ではない。
 脳無と対峙しているオールマイトも自分達を助ける余力がないはず。
 ──ならば切島の言う通り、自分達が迎え撃つしかない。
 誰もがそう考えて、敵の攻撃に対処すべく臨戦態勢になったその時、敵を威圧する気迫を放ったオールマイトと共に、緑谷達の頭上に一つの影が浮かび上がった。
 頭上から落ちてくる水滴と影に気づいて顔を上げた緑谷が、その人物を捉えて目を丸くする。
「さっ……佐鳥さん!?」
 弾丸の如く空を切り裂いて緑谷達を追い越したのは、風貌が変わった佐鳥だった。
 金の瞳が獣の如く敵を睨みつけ、銀色の長い髪を靡かせながら空中に足場でもあるかのように一歩踏み込む。
 彼女はそのまま敵に向かって跳躍し、薙ぎ払うように右足を大きく振りかぶった。
「……!? こいつ……!」
 ぶぉんと虚空を横切る佐鳥の足から暴風が放たれ、同じタイミングでオールマイトと脳無の拳が力強くぶつかり合う。
 男はオールマイトの気迫に身の危険を感じ、さらに戦線離脱から復活した佐鳥の攻撃を察知して素早く後ろへと飛び下がった。
 強い風の衝撃で少し吹き飛ばされたものの、威力は強くない。距離を保つための攻撃だったようだ。
 男はすぐに体勢を立て直しながら佐鳥を凝視し、それから赤い目を動かしてオールマイトを睨みつけた。
「『ショック吸収』って、さっき自分で言ってたじゃんか……」
「そうだな! 『無効』ではなく『吸収』ならば、限度があるんじゃないか!?」
 男の言葉に同意したオールマイトは、そう言って連続で拳を繰り出す。双方の目にも止まらぬ速さの攻防によって風が起こり、ワープの個性を持つ黒霧は近づけないようだった。
 敵が、味方が──誰もが彼らの闘いに目を向けている。
 その隙を、佐鳥は見逃さなかった。オールマイト達が起こす風をものともせず、彼女は再び跳躍する。
「ヒーローとは、常にピンチをぶち壊していくもの! 敵よ……こんな言葉を知っているか」
 さらに向こうへ──『Plus Ultra(プルス・ウルトラ)』。
 その声に合わせてオールマイトが脳無を空高く演習場外へ吹き飛ばし、宙を駆け抜けた佐鳥が『敵連合』のボスに向かって高く足を振り上げる。

「沈んで」

 冷たい声で呟いた彼女は、躊躇いもなくその白髪に向かって踵を振り下ろした。
 ドガァン、と爆発でも起きたかのような音がセントラル広場に響き、砂埃が巻き起こる。
 その威力に、思わず切島と爆豪は感嘆の声を零した。
「漫画かよ……ショック吸収をないことにしちまった……究極の脳筋だぜ」
「デタラメな力だ……再生も間に合わねぇほどのラッシュってことか……」
「それに佐鳥も……なんつー速さと馬鹿力してんだ、あいつ」
 視界を遮る砂埃がなくなると、地面に膝をついた佐鳥の姿が見える。彼女の周りには小さなクレーターができており、その深さが彼女の一撃の重さを表していた。
 ──まさかあの敵、死んでしまったのでは。
 思わず、緑谷達はごくりと息を呑む。
 しかし、濛々と立ち込める砂煙が晴れても、仕留めたはずの敵の姿はどこにもなかった。
「さてと、敵。お互い、早めに決着をつけたいね」
 どうやら、主犯格の敵はワープの個性によって救われたらしい。オールマイトが向けた視線の先には、無傷のまま佐鳥の攻撃から逃れた男が立っていた。
 顔に付いた手の隙間からオールマイトと佐鳥を睨みつけた男は、首をガリガリと掻きながら忌々しそうに呟いた。
「チートが……! 衰えた? 嘘だろ……完全に気圧されたよ……よくも俺の脳無を……全っ然弱ってないじゃないか!! あいつ、俺に嘘を教えたのか!?」
 その様は正しく自分の思い通りにならない子供の癇癪と酷似していた。
「それにこっちの女も……なんなんだよ、お前……!! 脳無の攻撃受けたんじゃないのか!? なんでフツーに動いてんだよ!」
 苛立ちを隠さず声を荒げる男の言葉に、佐鳥は何も答えなかった。
 答えようにも、できなかったのだ。彼女はすでに意識が朦朧としており、立ち上がる気力もなかった。それどころか全身を駆け巡る痛みと吐き気に襲われ、喉に込み上がったモノを吐き出す。
 突然彼女が咳込んで真っ赤な血を吐き出したのを目の当たりにした緑谷と切島は、慌てて彼女の傍へ駆け寄り、膝をついて容体を確認した。
 白銀の髪は、みるみると黒に変わっていった。
「佐鳥さん……! そんなボロボロなのに、なんて無茶を……!」
「顔色がやべぇことになってんな……早いとこリカバリーガールんとこ連れてかねぇとやばそうだ」
 そう言って切島が佐鳥を支えようと手を伸ばすも、佐鳥はその手を力なく右手で拒んで顔を上げた。
 金色の瞳が、遠くにある山岳ゾーンを見つめる。
「駄目です……まだ敵が……八百万さん達のところに──」
「まともに立ってられねぇ奴に何が出来んだよ」
 息も絶え絶えになっている彼女の言葉を、あとから歩み寄ってきた轟がぴしゃりと跳ね除けた。
「それにお前……その左腕折れてるだろ」
「はあっ……!? バッカか佐鳥っ! それ普通に動いたら駄目なヤツだろーが!! ああ、もう……! 緑谷、そっち支えろ! 連れてくぞ!」
「ま、待ってください……私はまだ──」
 戦える。
 そう言おうとした言葉は最後まで紡がれることなく、ぷつりと糸が切れたように佐鳥の体が傾いた。慌てて切島が支えて「おい!」と声をかけるが、ぐったりとしてピクリとも動かない。ぜぇぜぇと激しい呼吸音だけが口から漏れていた。
「なんかマジでやべーってこれ……!」
「おい、クソ髪! もたもたすんな、そいつさっさと運べ!」
 遠目から様子を見ていた爆豪が声を上げる。
 二人が振り返ると、彼は普段の何倍も険しい表情で佐鳥を睨みつけていた。
「『個性』と『副作用』から考えて、肺になんか影響あんのかもしんねぇ……手遅れになったら死ぬぜ、そいつ」
 冷静に告げる爆豪の言葉に、緑谷は青褪めた。
 蛙吹、峰田と共に水難ゾーンの敵の包囲網から抜け出した後、佐鳥と相澤のいるセントラル広場を経由して出口へと向かっていた緑谷は、水難ゾーンの水辺から二人の戦闘を覗き見ていた。
 それはちょうど相澤の指示で佐鳥が敵を一網打尽にしたところだった。二人を囲んでいた敵が地面に伏したその直後に佐鳥が脳無の攻撃を受けて殴り飛ばされるのを、彼はしっかり見ていたのである。
(あんな奴の攻撃を受けて、個性の副作用も我慢してたってことは……佐鳥さん、ずっと立ってるのがやっとだったはず……ボロボロになりながら、僕達を守ってくれたんだ……!)
 それなのに自分達に『敵連合』のボスを近づけまいと気丈に振る舞って戦ったのだから、正にヒーローの鏡である。
 ──ならば、オールマイトは。
 緑谷は負傷し、敵と対峙している自分の師を振り返る。彼もまた血を吐きながら、自分の力が衰えていることをおくびにも出さず自分達を守るために戦っていたのだ。
「あっちは俺達の出る幕じゃねぇみたいだな……切島、俺が背負う。佐鳥を連れて早くみんなのところに戻るぞ。爆豪の言う通り、肺になんか影響あるのかもしれねぇ。呼吸がおかしい」
 ぜぇ、はぁと荒い呼吸を繰り返す佐鳥を見て、轟は切島の手を借りながら彼女を背負い、オールマイトを見つめたまま動かない緑谷に目を向ける。
「緑谷! ここは退いた方がいいぜ、もう……却って人質とかにされたらやべぇし、主犯格はオールマイトがなんとかしてくれる!」
 続けて切島が声をかけるも、反応はない。緑谷は一切の安心した様子を見せず、焦燥を抱いたままずっと『平和の象徴』を見つめていた。
「緑谷」
 もう一度、轟が声をかける。
 その声に若干の苛立ちが含まれていることに気づく者はいない。
 そして緑谷もまた、それに気づかないままその場から姿を消した。
「な……緑谷!?」
 脳無と戦い、疲弊してボロボロになったオールマイトに追い打ちをかけようとした『敵連合』。
 その彼らから憧れの人を守るべく、緑谷は渾身の力を込めながら高く跳躍していた。あまりの速さに追いつけなかった敵が、僅かに目を見開いて緑谷を見つめる。
「オールマイトから離れろ!」
 そう言って握りしめた拳を振りかざした時、緑谷の目の前にワープ個性の靄が広がった。
「二度目はありませんよ!!」
 靄の中から、あの主犯格の男の手が伸びてくる。
 しかし、その手は緑谷に触れるより早く、どこからともなく飛んできた銃撃を受けた。
 同時に、演習場内に一人の生徒の声が響き渡る。

「一のAクラス委員長、飯田天哉! ただいま戻りました!!」

 その声は増援の合図であり、終戦の知らせでもあった。
 現れるなり退散しようとする敵を次々と追い詰める雄英高校の教師達。
 勇ましいプロの姿を見て、オールマイトや生徒達は安堵の表情を浮かべる。
 そんな中、銃撃を受けた『敵連合』のボスはワープゲートに取り込まれながら呟いた。


「次は殺すぞ……平和の象徴、オールマイト」


 かくして、事件は終幕を迎える。
 重傷者はプロヒーロー二名と生徒二名。
 派手に侵入された挙句、主犯格の男達には逃げられるという前代未聞の事態に見舞われたものの、死者は一人も出なかったという事実だけが、教師と生徒の心を僅かに軽くしたのだった。


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