One sceneShort story made with Word Palette

 バトルカフェの椅子に腰かけて外の景色をぼうっと眺める。大きな電光板に流れるCMに見慣れた顔が映る度に「相変わらず顔がいいなあ」と心の中で独り言を呟くのは何回目だろうか。考えるだけ馬鹿らしくなったのですぐにやめてしまうんだけれども。
「何見てんの?」
「キバナが出演したCM。あそこに流れてたよ」
「ああ、あれか……それで? 可愛い可愛い俺様の恋人はユニフォームじゃない彼氏の姿に見惚れてたワケ?」
「はいはい。いつでもどこでも格好良いよ。惚れ直した」
「お前のそういうトコあんま好きじゃない」
「私はそこで嫌いって言わないあんたが好きよ」
「ぐっ……ここぞとばかりに攻めてきやがる……」
「それが私のバトルスタイルなもので」
 隣に腰かけるなり軽々しく話しかけてきたのはそのキバナ本人だ。今では自他共に認めるチャンピオン・ダンデのライバルであり、ナックルシティジムのトップジムリーダーでもある。人間、大人になるとどんな変化が起きるかわからない。でも、その変化が面白いと思えるようになったのは、やっぱり自分も大人になったからだ。
 ふふん、と得意げに笑ってみせると、柔らかい笑みを浮かべたキバナの大きな手が私の頭を優しく撫でた。その手の大きさがまた、長い年月を感じさせる。
 ジムチャレンジの頃と違ってぐんぐんと伸びた身長。その体躯のためにわざと誂えたような端正な小顔。トレードマークになったお気に入りのヘアバンドもないしユニフォーム姿でもないけれど、そのオーラはやはり世間で騒がれる『ドラゴンストーム』そのもので、存在感は隠しきれていない。
「ふりゃぁ」
 ふと鳴き声が聞こえて目を向ける。キバナのフライゴンが小さな花束を私の相棒に差し出している。彼と色違いの肌をした相棒は嬉しそうにニコニコと微笑みながらそれを受け取っており、その後は仲睦まじい様子で寄り添い合いながら寛いでいた。
「相変わらず今日もお熱いことで」
「それ、昔俺がお前とナックラーに言ったやつ」
「懐かしいね。あの時はまさかキバナとこんな関係になるなんて思ってなかったなあ」
「お前は約束破って海外まで旅に出たしなぁ」
「いや、こうしてちゃんと帰ってきたし約束は破ってないじゃん。というか、決勝戦であんな熱いバトル生で見せられたら普通に暮らすとか無理ムリ。トレーナー魂が疼いて仕方なかったんだよねぇ……」
「意外と負けず嫌いだよな、お前。あと頑固」
「それは痛感してる。でも、そのおかでキバナも楽に付き合えるでしょ?」
 キバナはチャンピオンと同じくらい有名になってしまった。街を歩くだけで声をかけられるなんて当たり前だ。そんな彼の周りに集まる人達も当然、世間の目に留まりやすくなる。やっかみどころか誹謗中傷なんて普通にあったし、ぶっちゃけ警察沙汰になった案件もいくつかある。その度に正々堂々と相棒と一緒に相手を叩き潰したのは言うまでもない。修羅の国ガラルではバトルが正攻法なのだ。ガラル出身の者なら誰でもわかっている。
 これまでのことを思い出したのだろう。キバナは一度だけ苦い顔を見せたが、諦めたようにため息を吐いた。
「身に沁みるほど理解してるよ。感謝もしてる」
「ほんと? じゃあ、来月の頭くらいからちょっとシンオウまで旅に出てもいいかな?」
「おい、軽いノリで出かけるみたいに言うな。明らかにすぐ帰って来る気ないだろ」
「いや、短期間で一周するのは無理あるでしょ……」
「駄目だぞ。行くなら俺が引退してからにしてください」
「それ何十年後の話? 私老後はのんびり相棒と余生を過ごすって決めてるんだけど!」
「待て待て。なんでそこに俺を数に入れないの? 俺の存在どこ行った?」
「え、何? 老後も一緒にいてくれるの? プロポーズ? やだあ、結婚する?」
「お前まじで勘弁して……そういうとこ……まじで……」
 冗談混じりに揶揄ってやれば、褐色の肌でもわかるくらい顔を赤くしたあと、キバナは顔を手で覆いながらがっくりと項垂れた。
 付き合う前はこれでもかってぐらいグイグイ押されてたからね。このくらいは享受してもらわないと。
「逆プロポーズはドラゴンのお気に召さないかしら?」
 にんまり笑って訊ねれば、唸るような小さな声で「結婚するぅ」と返ってきた。どうやらこの後のデートは指輪を買いに行くことになりそうだ。

虜になったのはどちらが先か




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