One sceneShort story made with Word Palette

 びゅう、と風が吹いて近くで咲いていたタンポポの綿毛が舞った。ふわふわと目の前を通り過ぎるそれが気になるのだろう。緑の体がぴょんこぴょんこと跳ねて、大きなギザギザの口をガチンガチンッと激しく鳴らした。
 星のようにキラリと光る瞳がいつも以上に楽しそうに煌めくのが微笑ましくて、思わず私の頬が弛んだ。
「食べ物じゃないよ、それ」
「クラァッ」
 私の声に反応して振り向くナックラーはタンポポの綿毛を追いかけるのを諦めたらしい。ぽてぽてと歩み寄ってきて愛らしい瞳で私を見上げた。丸みのあるフォルムも相俟って上目遣いのような視線がさらに可愛らしさを助長する。つるつるとした頭を撫でると、ナックラーは嬉しそうに前足を上げて喜んだ。可愛い。
 ドラゴンタイプのフライゴンに成長するナックラーは基本的に狂暴である。野生の子らはすり鉢状の蟻地獄の巣穴を作り、そこで獲物が落ちてくるのをじっと待つらしい。そして狙った獲物はこの自慢のギザギザの口で挟んで逃がさないんだとか。故に、パートナーに選んだらまずは噛み癖を直すところから始まると聞いた。
「君は優しくて賢い子だから、本当に手がかからないよ」
 私の言葉を理解しているのか、いないのか。不思議そうに首を傾けたナックラーはそのままコロンと仰向けになってお腹を向けてくる。君はいつからワンパチになったのかな。それともガーディかな。可愛いが過ぎる。
 うりうりと擽るように指を立ててお腹を撫でて見ると、「クラックラァッ」とまた楽しそうな鳴き声が上がった。
 うん。やっぱり可愛くて仕方ない。またしても意図せず頬と口元がだらしなく弛んでしまうのを自覚しながら、私は隣に寝転んでぎゅっとナックラーを抱きしめた。
 太陽にずっと当たっているせいか、いつもより体が温かい気がした。ほど良い体温に眠くなってくる。
 ちょっと休息。遊び疲れてしまう前に一息吐いた私に倣って、ナックラーも大人しく腕の中で目を瞑った。
「おーおー。今日もお熱いな、お前ら」
 頭上からそんな声が聞こえて、私は片目を開けて相手を睨んだ。
 キバナだ。ジムチャレンジ中に知り合ってから頻繁にワイルドエリアに出没しては声をかけてくる少年である。
「そうなの、私達ラブラブなの。だから邪魔しないで」
「うわ。このキバナ様を差し置いて贅沢なやつ。服が汚れるからさっさと起きなよ」
「えー」
「そういうのは家でやんなさい」
 お母さんかよ。思わず悪態ついた私が体を起こすと、すかさずペシンと頭を叩かれた。地味に痛かった。
「それより、向こうで一緒にキャンプしようぜ」
「……ちょっと、うちの子に何する気? お宅のナックラーさんがうちの子めちゃめちゃ狙ってるんですけど」
「番と勘違いしてるだけだろ。良いじゃん」
「良くないよ! また噛むつもりでしょ!?」
 目を爛々と輝かせながらガチガチと歯を鳴らして近づいた赤い体のナックラー。一度噛まれたことのあるうちの子がぶるりと体を震わせたのを見て、咄嗟に私は重たいその体を抱き上げて距離を取った。もちろん、赤い体は素早く追いかけて来る。恐怖で引きつった悲鳴を上げた私が慌てて逃げ回ったのは言うまでもない。
 が、最終的に体力の限界で膝をついたのは私だ。ゼエゼエと息を切らす私を、地面に下ろした相棒が心配そうにオロオロとしながら見上げてくる。
 私をこんな目に遭わせたキバナのナックラーはというと、穴を開けないよう服に噛みつきながら背中によじ登り、得意げに鳴き声を上げていた。完全に遊ばれている。腹が立つけど、うちの子と同じく可愛いから許すしかない。しかし、ずっと腹を抱えて笑っていたキバナだけは別だ。絶対許さないと誓った。
「ドラゴンは執念深いって言っただろ。諦めろって」
「この子達はまだ地面タイプでしょ! うちの子はまだお嫁に出しません!」
「じゃあ、いつなら良いんだよ?」
「お互い美しいフライゴンになった頃に出直して来て」
 その時、キバナの瞳がギラリと獲物を捉えたドラゴンのように鋭くなった。
「オーケー。その言葉、絶対に忘れんなよ。他の男に浮気したら許さねえからな」
 え、と呆気にとられた。私の背中からナックラーを抱き上げたキバナは意地の悪い笑みを浮かべている。
「相棒を番と引き離すつもりかよ。当然、お前も一緒だ」
 いつの間にか私も竜に狙われていたらしい。唐突な爆弾発言に目の前が真っ暗になる。誰か助けて。

ドラゴンに狙われた少女




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