One sceneShort story made with Word Palette

 爆豪には二人の幼馴染がいる。一人は無個性だった少年で、もう一人はサイバー系最強の個性を持つ少女だ。
 無個性だった少年とは昔から相容れない。何でもできる自分と違い、彼は何もできない子どもだった。そのくせ自分と同じくヒーローになることを夢見て、張り合おうとする。どれだけ突き放しても自分を追いかけてくる。そんなところが、爆豪にはどうしても理解できなかった。
 対し、もう一人の幼馴染は不可解な一面はあれど付き合いやすい存在だった。言動こそ頭の悪い女のそれだが、彼女の実態はIQ二〇〇以上の天才である。特に自らその世界に入ることができる『個性』のおかげでサイバー関係の知識に関しては豊富だ。
 事実、彼女の身の回りにある通信機器は彼女の手によって最高のセキュリティに作り上げられている。その技術は国家に重宝されるほどで、故に彼女はその力の使用を国の管理下に置かれているのである。
 手厚い保護と言えば聞こえはいいだろう。しかし、それは裏を返せば監視されているのと同義だ。使い方を誤れば、彼女はこの国のどんなセキュリティをも看破してしまう。国は、それを悪用されることを恐れているのだ。
 その事実を知っているのは幼馴染を含めて極僅かな人間だけである。
 だから彼女は、今日も偽りの自分を演じる。
 自分は無害な人物であると。悪事を働くような人間ではないと。そう、周りに思わせるように。
「んーっ! おいしー!」
 思考に耽っていた爆豪は、満足げな声を聞いて視線を動かした。幼馴染が満面の笑みを浮かべながら好物のクレープを頬張っている。
「お前……よく飽きずにそんな甘ぇもん食べられんな」
 太るぞ、なんて口の端についた生クリームを見ながら言えば、幼馴染はぷくーと頬を膨らませて「動いてるからいいの」と抗議してくる。
 呆れた、とため息をこぼして爆豪は目を伏せる。
「お前……いつまでそれ続ける気だ」
「ん? それって?」
「その舐めた態度だよ。昔はそんなんじゃなかっただろ」
 昔の彼女は、そう、どちらかと言えばもう一人の幼馴染と同じで、根暗な子どもだった。大人しく、口を開くこともあまりしない無口な子どもで、それこそ二人とは相容れない存在だった。一緒に遊んだ記憶もあるにはあるが、頻度は圧倒的に少なかったと思う。
 それが、いつの間にかこうなってしまった。
 ──否。幼い爆豪達が、そうさせてしまったのだ。
 純粋にヒーローを目指していたあの頃の、くだらない約束が彼女を変えてしまった。
 例え彼女が否定しようとも、爆豪はそう考えている。
「そんなことないよ。ちょっと人見知りしてただけ」
「そんなクソみてーな演技でこの先も誤魔化し続けられると思ってんのか」
「ひどーい! 演技なんてしてないもん!」
「ハッ! てめーのその役者根性だけは認めてやるよ」
 言って、爆豪は自分の手の中で震えるスマホに視線を落とす。母親からのメッセージだった。
「どうかした?」
「……ババアからの伝言。お前、今日はうちに飯食いに来いってよ。さっさと帰んぞ」
「そんなすぐ食べられないって……あ、かっちゃん一口食べる?」
 ──こいつはアホか。
 爆豪はまたため息を吐き出した。
 全く人の気も知らないで暢気なものである。だが、それを口に出すのも面倒くさくて、爆豪は彼女が差し出すそれに遠慮なくかぶりついた。それは一口どころではなく、残っていた分の半分がなくなった。
「あ!?」
「……甘ぇ」
「とか言いながらめっちゃ食べとる……しかも残ってたチョコもってかれた……」
「あ? おめーが遅いから手伝ってやったんだわ。はよ食え。ぼさっとしてっと残りも食うぞ」
「それはやだ!!」
 慌てて手の中に残っているそれにかぶりつく彼女にまた呆れる。『花より団子』とはまさにこのことか。
 ──けど、今はまだそれでいい。
 幸せそうな顔でもぐもぐと好物を頬張り続ける彼女を無言で見つめていた爆豪は、おもむろに彼女の口元に手を伸ばす。ガキみてぇ、なんて感想は言葉にすることはなかった。拭いとったそれを口に運んだ時に恥ずかしそうに赤面した彼女を見て、爆豪はただ意地悪く笑った。

君はそのまま、そこで笑っていて




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