One sceneShort story made with Word Palette

「そういえば、緑谷の幼馴染……」
 昼休み、食堂で一緒に昼ご飯を食べていた轟がふと思い出したように口を開いた。
「指輪……してなかったか? 結婚してんのか?」
「ぶっ」
 秀才から飛び出した天然発言に、思わず緑谷は今まさに飲み込む寸前だった水を吹き出しそうになった。涙目でげほっと激しく咳き込んだ彼の背中を、轟とは反対側に座っていた飯田が労わるように擦る。
 彼女が身に着けている物に気づく洞察力とその記憶力の良さには驚いたが、どうしてこの友人はいつも突拍子もない発想になるのか。
「けほっ……轟君、どうしてそんな発想に……」
「わりぃ……薬指だったから、てっきりそうなのかと」
「あはは……全然違うよ。そんなんじゃなくて、あれは個性の使用を制御するサポートアイテムなんだ」
「個性の? どんな個性の持ち主なんだ?」
「『ジャック』だよ。触れた機械を全て意のままに操れるんだ。自ら電子世界に入り込むこともできるんだよ!」
 興味を抱いた飯田が訊ねると、緑谷は目を輝かせて鼻息を荒くしながら答えた。どうやら幼馴染の個性は彼の好奇心を擽るものらしい。興奮状態の緑谷を見つめながら、轟もまた納得したように頷いた。
「なるほどな。爆豪が言ってた『スマホを乗っ取る』ってそういうことだったのか」
「自らその……電子世界? とやらに入り込むというのはどういうことだ? イマイチ把握できないのだが……」
「それはね──」
「実際に見た方が早いよね〜」
 ふと聞こえた声に、緑谷は動きを止める。聞き覚えのある声に轟と飯田はきょろきょろと辺りを見渡していたが、当然その姿はない。何故なら、その声の主は緑谷のズボンのポケットから聞こえたのだから。
 緑谷はおもむろにスマホを取り出した。
「ハローハロー! いず、元気?」
「えっと……うん……元気だけど……」
 画面の中で満面の笑みを浮かべながら両手を振っているのは他でもない、自分の幼馴染だ。
 有り得ない出来事を目の当たりにした飯田と轟がぽかんと口を開けたまま固まる。
 そんな友人達の反応に苦笑を浮かべ、緑谷は自分のスマホの内部を興味深そうにきょろきょろと見渡している彼女に目を向ける。思わず呆れるが、一体何が目的でそこにいるのか尋ねずにはいられなかった。
「あの……そこで何してるの? 乗っ取るのは駄目って言われてなかったっけ?」
「ん? んー……ごめん! 実は色々あって先生の許可貰って個性の練習してるんだよね!」
 だから練習台にしちゃった、と舌を見せて笑う幼馴染。
 これがもう一人の幼馴染だったらどうなっていたことか。手の平を爆発させながらスマホの画面に向かって怒りのまま吠える姿が容易に想像できた。
「もー、聞いてよ。個性の練習したいだけなのにあちこち申請しなきゃ駄目でね、今回も許可貰えるまで一週間以上かかったんだよ……あ、先に言っとくけど、かっちゃんみたいに電源落とすのはやめてね!? 次電源つけたら私号泣するから! 問答無用でバグ起こすから!」
「そんなことしないよ! それより少し落ち着いて……」
「そのまま電源落としたらどうなるんだ?」
 思った以上に興味深かったのだろう。
 隣にいた轟が緑谷のスマホを覗き込んで尋ねる。
 しかしその瞬間、画面の中の幼馴染は「ひゃっ!?」と声を上げて両手で顔を隠し、体の向きを変えた。ちらりと見えた横顔は仄かに赤らんでいたが、それに気づかない轟は拒絶されたと思い、眉尻を下げて緑谷から離れた。
「……なんか、わりぃ」
「いや、轟君は悪くないよ!? これは恥ずかしがってるだけだから! ほんと気にしないで……!」
「ちょっ……噂のA組最強めっちゃイケメンじゃん……大画面やば……マジ惚れる……いや惚れたわ……」
「うん。それかっちゃんの前では言わないようにね……」
 この幼馴染、この状況で本当にマイペース過ぎる。人見知りであることも相俟って言動がまさにミーハーのそれだ。爆豪が聞けば不機嫌になるのは間違いない。
 ため息を飲み込んで緑谷が釘をさすと、幼馴染は不思議そうに首を傾げ、それから何かを思い出した顔をする。
「あ、やば。そろそろ戻らないと……じゃあね、いず!」
 慌ただしく手を振って画面から去っていく幼馴染にため息を吐き出す緑谷の隣で、飯田がポツリと呟いた。
「結局、どうやってスマホの中に入ったんだ……?」

仮想世界のファンタジーガール




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -