One sceneShort story made with Word Palette

 帰る前のHRが終わると、いつも爆豪は我先にと一人で教室を出て行く。忘れ物をしていないか荷物を確認しながら、緑谷がその背中をチラリと横目で見送るのはもう日課になっていた。昔からの癖というのは、高校に入ってからもそう簡単には変わらないものである。
 ところが、今日の爆豪は珍しくのんびりとした様子で席に着いたままスマホの画面を眺めていた。
 珍しいなと思っても尋ねることはしない。緑谷はそろりと立ち上がって荷物をまとめた鞄を背負う。
 それでも動こうとしない爆豪が気になってちらりと肩越しに振り返っていると、緑谷の帰り支度を待っていた飯田と轟が不思議そうに声をかけた。
「緑谷君?」
「どうかしたか?」
「あ、ううん……なんでも──」
 なんでもない。そう緑谷が口にしようとした時、盛大な舌打ちが聞こえた。あからさまにイラついたその音を隠そうとしない人物は、この教室には一人しかいない。
 続けて、その人物が声を発した。
「おい、デク」
「へっ? ……あ、な、何? かっちゃん」
 まさか自分が声をかけられるだなんて思いもしなかった。つい昔からの癖でびくりと肩を震わせ、緑谷はおそるおそる振り返って幼馴染の顔を見た。
 ──うわぁあ、すごい嫌そうな顔。
 不機嫌なのは言わずもがな。いつも眉間に皺を寄せて怖い顔をしているが、今はその眉間の皺が数倍に増えていた。目つきも普段の数倍鋭くなっており、ヴィランも裸足で逃げ出してしまいそうな鬼のような顔だ。
 そんな彼は一言、告げた。
「残れ」
 本当にそれだけだった。理由もなく命令された緑谷は思わず疑問を口にする。
「いや、あの……いいけど、なんで?」
「ああ? てめぇーがちゃんとメッセージ見てねぇから俺んとこにまで連絡きてんだろーが!」
 三白眼がさらに吊り上がり、ぎゃんぎゃんと吠える。
 それにまたビクリと肩が震えたが、メッセージという言葉に緑谷は急いで自分のスマホを取り出した。
 そして爆豪がどうして残っているのか理解した時、緑谷の背後から「あーっ!」という女子の声が飛んできた。
 後ろを確認するより早く、その声の主は飯田と轟の間をすり抜けて自分の背中に飛びついてくる。重みを感じて前のめりに傾く体をなんとか踏ん張って耐え、緑谷は後ろを振り返った。
 目が眩むほどの眩しい笑顔がそこにあった。
「いず、いた! ……あっ、かっちゃんも待っててくれたんだね! やっさしー! ねえねえ、今日は久しぶりに三人で帰ろうよ! 駅前のクレープ食べに行こ!!」
「はぁあ!? なんで俺がデクと一緒に帰んなきゃなんねーだよ! んなもん一人で食いに行け!」
「いーじゃん、せっかく待っててくれたんだからぁ」
「無視したらお前が鬱陶しいぐらいメッセージ送ってくるからだろーが!」
「そこでブロックしないとこが優しいよね、かっちゃん」
「お前が勝手に俺のスマホ乗っ取るからだわ!!」
 瞬く間に教室が騒がしくなった。爆豪相手に物怖じすることなく話しかける彼女に、クラスメイト達の間に動揺が走る。そんな空気の中、二人の間に挟まれている緑谷はこの状況をどうしたものかと困った顔になる。
 そんな緑谷に、切島が真っ先に問いかけた。
「な、なあ、緑谷……その子、誰?」
「あ、うん……幼馴染なんだけど」
「幼馴染!? もう一人いたのか!!」
 あの爆豪相手に物怖じすることなく話しかける女子に興味津々らしい。切島が緑谷の背中にくっついている女子に目を向ける。
 すると、彼女は慌てたように緑谷の背中に顔を隠した。
「ご、ごめん……最初は人見知りするんだ」
「お、おう……ギャップがすげぇーな」
 爆豪と話していた時のテンションはどこへ消えたのか。注目されていると気づいた途端に無口になった彼女を見て緑谷の顔に苦笑が浮かぶ。
「けっ……そんなだからクラスでもぼっちなんだろ」
「ぼっち違いますぅっ! ちゃんとお友達いますぅ〜!」
 唇を尖らせながら反論する幼馴染をハッと鼻で笑ってあしらった爆豪はツカツカと彼女に歩み寄る。そして緑谷から引き剥がしてそのまま教室から連れ出した。
 そんな二人を放っておけるはずもなく、友人達に謝りながら緑谷も仕方なく彼らの後を追いかけるのだった。

あいつと、僕と、あの子




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