One sceneShort story made with Word Palette

「轟さ、結局あいつとはどーなのよ?」
 緑谷と飯田に誘われるまま寮の共有スペースでクラスメイトの男子数人と談笑していた轟は、突然話を振ってきた瀬呂に目を瞬かせた。あいつ──というのは、間違いなく幼馴染のことだ。興味半分、からかい半分といった風に笑いながらこちらをじっと見つめている彼に、質問の意図が掴めない轟は首を傾げた。
「どうって?」
「お前らずっと一緒にいるだろ。付き合ってるとか、なんかそういう関係なの?」
「それは俺も気になっていた」
 プライベートで繊細な問題についてずけずけと聞くことを良しとしない飯田が、珍しく頷いた。
「お、飯田めずらし──」
「幼馴染とはいえ男と女……いくら君達の仲がいいと言っても、年頃の男女がお互いの部屋を行き来しているのはいかがなものかと少し気にはなっていた」
「って、真面目かよ! 言いたいことはわかるけど!」
 なんて不思議なことではない。飯田は通常運転だった。
 話を聞いていた上鳴が笑い交じりにツッコミを入れる。
「で? どーなのよ、実際」
 あからさまに興味津々といった目を向けられて、轟は何をそんなに期待しているのかと不思議に思いながら事実を述べた。
「別に……付き合ってはねぇけど……」
「ふーん? じゃあ、今んとこ轟の片思いってわけか」
「いや。お互いに好き……だと、思う」
 やや迷いの感じる控えめな否定だった。無言のまま何とも言えない視線が轟に集まる中、緑谷は「最近こういう流れが多いな」と一人だけ苦笑を浮かべた。
「あー……うん。なんか俺わかった気がする」
「だろ? こういうとこだよ、轟……」
 瀬呂が納得したように頷き、上鳴ががっくりと項垂れる。続いて、今度は飯田が不思議そうに首を捻った。
「お互いに好きだと知っているのに恋人ではないのか?」
「おかしいか?」
「おかしいとは思わないが、不思議な関係だと思う」
 飯田のそれは率直で、正直な感想だった。
 好き合っていると公言しながら、なんでこんなにもややこしくなっているのか──それは言わずもがな、当事者である轟が自身の感情に疎すぎるのが問題だった。
 今でこそ緑谷達と親しくしているが、以前の轟は複雑な家庭環境による父親との確執が原因で他人との交流も最小限だった。そのため、彼にとって心を許せる相手も限られている──つまる話、その一人が幼馴染だった。
 幼い頃から心の隙間を埋めてくれた、自分と最も親しい人物。誰よりも自分に近い存在で、今ではその彼女が傍にいることが当たり前になっている。
 だから、これから先もずっとこの関係は絶対に変わらない──少なくとも、轟はそう思っているのだ。
 どうしたものか、緑谷達はそれぞれ顔を見合わせた。
 そんな中で口火を切ったのは、やはり瀬呂だった。
「轟……お前、そーゆーことは曖昧にしない方がいいぜ」
「そーそー。気づいてねーと思うけど、爆豪もそこそこにあいつのこと気に入ってんだからな。いつか横取りされるかもしんねーよ?」
 え、と無表情のまま轟の頬が強張った。
「そうなのか? 誰に対してもいつも怒鳴っているところしか見かけないが……」
「ううん、そんなことないよ。かっちゃん、彼女に対しては少し態度が柔らかいと思う。僕も少し気になってた」
 緑谷の言葉に、ますます轟の顔色が変わる。
「もーっ! めんどくさいから直球に聞くぞ! 轟、お前はあいつのこと恋愛的な意味でちゃんと好きなの? キスしたいとか触りたいとか思わねーの?」
「おい、それは直球すぎんだろ」
 瀬呂が諌めるも、上鳴は知らんぷりだ。「さっさと答えろ」と言わんばかりの目で轟を見つめている。
 対し、そんな上鳴を見つめ返した轟は閉口した。その無表情からは何を思っているのか、誰も想像できない。
 ただ、彼が真剣に上鳴の問いに対する答えを探していることは、この場にいる全員がなんとなく気づいていた。
「……俺は」
 全員が固唾を飲んで見守った。
「俺は、あいつのこと──」
「あれ? 珍しいね。焦凍がみんなといるなんて」
 なんてタイミングの悪いことか。轟の口から本音が零れ落ちるより早く、話題の中心人物が現れた。
 途端にむっつりと黙り込んでしまった轟に、全員が肩を落としたのは言うまでもない話だった。

プラトニックで難儀な純情




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