未来の奥さんに会いに行く冬の話


 真っ青に晴れた空。ゆったりのんびりと泳ぐ大きな雲。その間を優雅に飛び去っていく数羽の鳥。
 冬の寒さをかき消してしまいそうな暖かい真昼の太陽の日差しを浴びながら、降谷はそっと隣の席に座る人物へ目を向ける。
 そこに座っているのは女子だ。ガヤガヤと騒がしい中、黙々と午前中に出た宿題を片付けている。
(相変わらず、真面目……)
 頬杖をつきながら、その様子をぼーっと眺める。常に姿勢の良い彼女は時折広げた教科書を見ながら、スラスラと手を止めることなく問題式を書き込んでいく。そこそこに成績が優秀な彼女は休み時間になると大抵クラス委員長と一緒にお喋りに夢中になっているか、委員長がいない時はこうして授業で出た宿題に取り組んでいる。宿題が終われば読書へと移行するのもいつものことだ。
 ふと、彼女の手が止まる。分からない問題があったのか、シャーペンで下唇を押し上げ、じっと手元のノートを見つめている。
 そして、ぱらりと落ちたサイドの髪を耳にかけ直した。夏の頃に比べて少し伸びた髪はサラサラとしていて触り心地が良さそうだ。
 降谷は、この時の彼女の仕草や表情が密かに好きだった。当の本人は至って真剣な表情なのに、押し上げられて少しだけ突き出た唇がどこか愛嬌を感じる。髪で隠れていた彼女の横顔がハッキリ現れて、降谷は飽きることなく見つめ続けた。
 すると、教科書に視線を移した彼女が降谷の視線に気づいた。
 真っ直ぐな彼女の瞳と視線が交わって、心臓がドキリと音を立てた。
「……? どうか、した?」
「ううん。別に? それより、どこか分からないところあった?」
 適当に誤魔化してそう聞き返すと、見られていることに戸惑っていた彼女はキョロキョロと目線を泳がせてから、そっと教科書に書かれた問題を指す。
「ここ、なんだけど……」
「ああ。それ、こっちの式を使うんだ。今日の授業でやった応用だよ」
「あ、そうなんだ! ありがとう、降谷君」
 謎が解けてぱっと表情を明るくしてお礼を言った彼女に、降谷は自分の心臓が早くなるのを感じながら「どういたしまして」と返した。
 それからまた黙々とペンを動かす彼女は、降谷の方を見ることはなかった。

 ──好き、だなあ。

 こっそりと抱いている恋心が腹の中で燻る。
 頬に熱を感じ、少しだけ赤くなっているであろう顔を隠すように、降谷は頬杖をついていた腕にもたれた。人より肌の色が濃いので顔が赤くなっても簡単に知られることはないが、それでも気恥ずかしさが勝った。
 同時に、いつもと変わらない彼女の様子に落胆する。
「……にぶちん」
 こんなにも好きだと態度で表しているというのに、人見知りで鈍感な──そもそも誰かに好かれる可能性がないと思ってる──彼女は全く気づいてはくれない。それどころか、本人の中ではよく喋る仲の良いクラスメイト程度の認識でしかない。他の生徒達が協力してくれてメールのやり取りもできるようになった間柄だというのに、彼女は降谷を異性として認識する気配はなかった。知らないフリならまだしも、気づいてもらえないというのは少し、いや、かなり複雑な心境だ。
 中学最後の冬。もうすぐクリスマスがやってきて、その後に正月を迎えたら、降谷達はお別れだ。
 ──自分が行動しないと、きっとここからは何も進展しない。
 いよいよ覚悟を決める時がきたのだと感じながら、降谷は体を包み込む暖かさにゆっくりと目を閉じた。


 ぱさり、と紙が動く音がした。
 どうやらいつの間にか深く眠っていたらしい。もたれかかった何かの温もりを感じながら薄らと目を開くと、真っ黒なテレビ画面が見えた。
(あれ? 僕、いつ家に帰ったっけ?)
 微睡みから抜け出せずにぼーっとした思考の中、降谷は何も映っていない画面を何度も瞬きしながら見つめた。しかし、やがて段々と覚醒し始めた頃、彼はそこに映っている者に気づいて自分の目を疑った。
 黒い画面の中にはソファーに腰掛ける降谷と、見覚えのない一人の女性の姿がある。どうやら、降谷は今の今まで彼女にもたれかかって眠っていたらしい。
 ゆっくりと視線だけを動かし、降谷はもたれかかっている人物の足元へ目を向けた。スカートの裾からソックスで隠れた細い足が伸びており、モコモコとした無地の青いスリッパを履いている足先がちょいちょいと動いていた。
 もう少しだけ視線を手前に向けると、分厚い幅の本が見えた。ハードカバータイプのそれは彼女のブランケットをかけた膝の上で広げられ、爪に薄い桃色のネイルを施した女性らしい手がペラリとページを捲った。同時に、不自然に膨らんだ腹部に注目した。
 ──妊婦だ。
 どうしてそんな人にもたれかかって眠っていたのか。状況も理解できないまま、そろりと降谷は顔を上げる。
 真剣な眼差しで本を見つめている眼鏡をかけた彼女の横顔にどこか既視感を覚えた。
 なんだろう、誰かに似ている気がするのに思い出せない。けれど、その謎も束の間に解決した。彼女がぱさりと落ちる長い髪を耳にかける仕草を見て、降谷はピンととある人物に思い当たったのだ。
(え……ええっ……!? これ、どういう状況だ……!?)
 少しでも似ていると認識してしまうと、どうしても目の前の女性が隣の席の彼女にしか見えない。降谷の視線に鈍感なところも、髪を耳にかける仕草も、本を読んでいる時の横顔も、毎日降谷自身が好んで見つめていたものだ。
 しかし、今のこの状況はどうしたことか。どこからどう見ても目の前の彼女は降谷と同級生のようには見えない。まるで彼女だけが大人になったみたいだ。教室で盗み見る時よりもまじまじと見つめてしまう。
 そこで、彼女も自分を凝視する視線にようやく気づいたらしい。降谷へ目を向け、視線が交わるとさっきまで本を見つめていた真剣な目が細くなり、慈しむような優しい眼差しになる。
「おはよう。よく寝てたねぇ」
「お……おはよう、ございます……」
 彼女から離れて思わず敬語で返すと、彼女はクスクスと笑った。
「どうして敬語なの? ようやく仕事が片付いたって言ってたのに、まだ『安室さん』でいるつもり?」
「え、アムロさん?」
「? うん。……あれ? 違った?」
 違ったも何も『安室さん』がどういう人物なのか降谷は知らない。首を傾げる彼女と同じ方向に首を傾げてしまう。
 すると、彼女は何かに気づいたようで降谷に顔を近づけた。ふわりと甘い香りが漂う。
「ん〜……? んん? 零君……だよね?」
 ふっくらとした柔らかな唇に自分の名前を呼ばれ、降谷の心臓がドキンッと大きく脈打った。頭の先からつま先までジワジワと沸騰するような熱を感じ、降谷は無言で何度も頷く。
(夢、か……? 夢だよな……? 夢に決まってる。というか、頼む、夢であってくれ……)
 愛らしさよりも美しさを感じる大人の女性らしい彼女にドキドキと胸が高鳴るのを何とか鎮めようと、降谷は彼女から目を逸らし、視線を落とした。
 そこで彼女の腹が視界に入る。いくら中学三年生とはいえ、どうすれば子供ができるかぐらい、降谷にも知識はある。何となくだが、降谷はこの大人になった彼女と自分が関係しているのだと察した。でなければ同じ部屋にいないし、彼女が自分のことを名字ではなく「零」と親しげに呼ぶはずがない。
 何より、例え夢であっても大人になった好きな女性が他人の子供を身籠っているだなんて、ショックが大き過ぎるので考えたくはなかった。
「……ふ〜ん?」
 どこか楽しそうなその声音に、ちらりと降谷は彼女の顔を見る。下唇を人差し指で押し上げてじーっとこちらを見つめている彼女がいた。それが考え事をする時の仕草だと知っている降谷は、続けてにんまりと笑った彼女に後退りする。
「……ねー、零君♪」
「は、はい」
 甘えた声で彼女に名前を呼ばれることが嬉しい反面、少しだけ、いやかなり、身の危険を感じた。
 身構えて頬を引きつらせる降谷の手を取り、彼女はニッコリと笑いかける。
「触ってみる?」
「……はあっ!?」
 束の間の静寂のあと、降谷は飛び上がった。
 ──この女は、誰の、何を、触らせようと言うのか。
 ぼふんっと顔を真っ赤にした降谷は全力で首を横に振って握られた手を引き抜こうとする。対し、彼女は大慌てする降谷を見て堪えきれずに吹き出し、大笑いしていた。
「あははははっ」
「わ、笑うなっ!」
「ごめんごめん。いつも意地悪されるから、ちょっと仕返ししたくなっちゃった。ね? 許して?」
 両手を合わせて、わざとらしくも懇願するような表情をする女。そんな軽口もふざけた態度も普段の彼女からは想像もできないもので、降谷はうぐぅ、と押し黙ってしまう。
「でも、ここを触ってみて欲しいのは本当だよ」
 そう言って自分のぽっこりとしたお腹を擦った彼女に、降谷は肩を竦める。好きな女性に、それも大人の女性の体に触れるのは躊躇いがあるけれど、どうせ夢だし、これも役得かと考え直す。
「……じゃあ、ちょっとだけ」
 ほんの少しの下心を隠し、降谷はゆっくりと彼女が撫でているそこに触れた。すると、ぽこぽこと振動を感じた気がしてビクリと手を離す。
 呆然としてそこを見つめていると、彼女は「ふふ……元気でしょ?」と母性溢れる笑みを浮かべる。
 もう一度そっと触れて優しく撫でながら、降谷はコクリと頷いた。
「……男の子?」
「まだ性別は聞いてないけど、双子なの」
「双子!?」
 まさか、嘘だろ。この小さな母体に二人分の命が宿っているだと。
 このままでは今にもお腹が破裂するのでは、と青褪めて手を引っ込めた降谷の心境を知ってか知らずか、彼女はのんびりとした様子でお腹を撫で続け、話しかける。
「もうそろそろ産まれる予定なんだよ〜。ね〜?」
 この女、なかなか強かである。母になる女性の強さというものを微かに感じた気がした。
「……ねえ、零君」
「え、あ、……な、何?」
「私ね、結婚して、子供もこうして授かって、今がすっごく幸せなんだよ。だから、これからもし本気でやりたい事を見つけても、私のことなんて気にしなくて良いんだからね」
「え……そ、それって、どういう──」
 どういう意味だ、と突然の告白に驚きながら問い返そうと口を開くが、ぷにっと彼女の人差し指が降谷の唇を押さえた。
 大人の女性らしい色気を纏いながらぐっと顔の距離を縮めた彼女は、ゆるゆると首を横に振りながら穏やかに微笑む。
「同じ高校に行っても、よろしくね」
 そう言って、彼女は降谷の唇からゆっくり指を離す。
 ──ちょっと待て。高校って、どういうことだろうか。もしかして、彼女も自分と同じ高校に行くのだろうか。けれど、彼女は確か男女共学の公立を志望していた自分と違って、私立の女子校への入学を志望していたはずだ。本人からもそう聞いている。
 その疑問が脳裏を過った時、目眩を起こしたように降谷の視界がぐるりと回る。夢から目覚めるのだと気づいた降谷は、咄嗟に「待って」と離れていく彼女の手を掴んだ。


「そんなの、聞いてないぞ!」


 ガタッ、と足が机を蹴り上げて大きな音を立てる。顔を上げるとそこには幼馴染の景光が驚いた顔をして自分を見ており、その彼の肩を自分が強く掴んでいた。
 降谷は景光の顔を見て我に返った。ゆっくりと自分の周囲を見渡すと、目を丸くさせた教師とクラスメイト全員が降谷に注目していた。もちろん、隣の席に座っている彼女も同じである。ぽかんした表情で降谷のことを見つめていた。
 微妙な雰囲気で静まり返った教室の中、一人悪目立ちしてしまった降谷は己が昼休みの間から居眠りしてしまったことを思い出し、そして自分の口から大きな寝言が溢れたことに気づいて顔を真っ赤にした。
 そんな降谷を見て、真っ先に吹き出したのは景光だった。それに連鎖反応を起こすように、教室にどっと笑いの波が押し寄せる。
「……そ、そりゃあ、ゼロ……お前、眠ってたからな? 聞いてなくて当たり前だろ〜?」
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
 今すぐ穴があったら入りたい気分だった。腹を抱えて笑う親友をギロリと睨みつける降谷に、教壇に立っていた教師も笑いながら「もっかい説明するからちゃんと聞いとけよ〜」と注意した。
 それに消え入りそうな声で謝罪し、降谷はチラリと隣の席を見た。
 隣の席の彼女も他の生徒達と同じく肩を震わせてクスクスと笑っていた。もう恥ずかしさで死んでしまいそうだ。降谷は机に肘をついて項垂れる。
 よりによって好きな子の前で、なんて無様な。めちゃくちゃ格好悪い。本当に情けない。もういっそこれが夢だったら良かったのに。そんなことを思いながら、降谷は机の中からもぞもぞと教科書を取り出す。
 すると、しばらくして教師が生徒達に背を向けて板書を始めた時、隣から伸びてきた手が小さく折り畳んで丸めた紙を置いた。何だ、と手に取ってみれば紙の中に何か入っているようだ。
 降谷は隣の席を見た。
「あ け て」
 口パクで紙包みを指した彼女に促されるまま、降谷は紙を開く。そこに入っていたのは一口サイズのチョコレートだった。そしてチョコレートを包んでいた紙には丁寧な文字でメッセージが書かれている。
『おはよう。ぐっすり寝てたね! 笑っちゃってごめんね。チョコあげるのでどうか許してください』
 ニッコリと笑う顔文字と一緒に添えられたそのメッセージを見た降谷の心臓を、ズキューンと大きな音を立てて何かが貫いた。
(許す!! 普通に許す!!)
 好きな女の子から初めて貰った手紙と、チョコレート。嬉しくないわけがない。
 手元にあるそれを見つめながら喜びでニヤける顔を隠すように口元を隠した降谷は、未だに板書を続けている教師にバレないよう、そっとチョコレートをポケットにしまいこむ。
 ふとその時、自分のポケット覚えのない感触があった。
 取り出してみると、そこに入っていたのはレモン味の飴だった。
(あれ……こんなの、いつの間に入れていたっけ?)
 思い返すけど全く心当たりはない。けれど、丁度良かった。
 降谷は自分のノートを適当な大きさに千切り、メッセージを書いて彼女が作ったように小さく飴を包むように折り畳む。そして再び教師が生徒達に背を向けた時、彼女の机に素早く置いた。
 驚いて自分を見る彼女に「お返し」と口パクで伝えると、そのまま降谷はみんなより出遅れてしまった板書の書き写しに集中する。そのすぐ後、カサカサと音を立てて紙を開いた彼女が「えっ」と小さく声を漏らし、何度もその紙と自分を交互に見ている気がした。
 降谷は何も知らないフリをした。他の人より濃い色の肌がさらに赤く色づいていることを悟られたくない一心だった。
 だから、彼はこの時に彼女の秘めた想いに気づかなかった。

『チョコありがとう。でも、お詫びは僕とのデートにして欲しいな』
 そう書かれていた降谷の手紙と飴を貰った彼女もまた、林檎のように顔を真っ赤にしていた。


 *** *** ***


「悪い大人だな。中学生相手にハニトラするだなんて」
 中学生の降谷がいなくなってすぐ、寝室から姿を表した夫を振り返った彼女はしれっと言い返した。
「ハニトラじゃないもん。好物を上げただけだよ。私の、だけど」
「唇を押さえて距離を縮めるだなんて、誰に教わったんだ?」
「忘れたの? 先に仕掛けたの、零君よ」
「……そういえば、そうだった」
 大人の姿をした降谷は眠そうに目を閉じたり開いたりを繰り返し、しまったと表情を歪めた。
 確かに、彼女と付き合いたての頃に同じことをした。その頃の降谷は、ようやく好きな女の子と結ばれて柄にもなく浮かれていたのだ。とにかく彼女を自分だけに夢中にさせたくて、クラスメイトにこっそり少女漫画を借りて参考にしたり、幼馴染の景光と二人であーだこーだ言いながら観た映画のシーンを真似して彼女を翻弄していたのだ。
 ──反省するべきなのは、若い頃の自分か。
 心の中で呟きながら、堪えきれずにふわぁ、と大きな欠伸を漏らす。
 ソファーに腰掛けている彼女は、そんな降谷をジトリとした目で見た。
「零君も、私に何か言うことがあるでしょ?」
「なんのことだ?」
「夏祭りのこと! あの日のことも夢じゃないって分かってるんでしょう? 惚けても駄目だからね」
「んー……どうだったかな?」
「零君」
「はいはい。怒るとお腹の子に悪影響だぞ」
「れ・い」
 語気を強めに名前を呼ばれ、降谷は肩を竦めて両手を上げた。先に降参したのは彼の方だった。
 妊娠してからの変化だろうか。もうすぐ二児の母となる彼女からは、こうして時々逆らえない雰囲気を感じるようになった。自分ばかりが翻弄していた学生時代の頃に比べて、最近ではお互いの立場も少しずつ逆転しつつあるように思う。
 けれど、それも少し楽しんでいたりするのが降谷だった。
「……悪かったよ。でも、今の僕があそこまで言わないと、君はあの頃の僕を意識してくれなかっただろう?」
「それは否定しないけれど……クラスメイトと同じ名前の大人の男に『未来の旦那です。もうすぐ子供も生まれます』なんて言われたら変に意識するに決まってるでしょ。せめて付き合ってる、ぐらいにしてよ」
「ふぅん? じゃあ、次から善処するよ」
「いや、もう次はないから。何なの? 今度は年老いた私にでも会いに行くの? 零君は超能力者なの? 一体どうやって過去や未来に飛んでくるの?」
 今更過ぎる質問を投げてくる彼女に降谷は首を捻る。
 実のところ、降谷にもこの不思議体験については全く分からなかった。うつらうつらと居眠りした時に気がつけば未来や過去に飛んでいるのだ。
 けれど、タイムスリップした先でも出会うのが目の前にいる愛しい妻であるなら、つまり、そういうことなんだろう。
 降谷はソファーに座っている彼女の隣に腰掛け、彼女の額にキスをしてからニッコリと微笑んだ。
「愛の力、かな?」
「零君、まだ疲れてるなら寝てきてください」
「おい……これでも僕は結構本気で言ってるんだぞ?」
「はいはい。それはどうもありがとう、愛しい旦那様」
 適当に聞き流しながら自分の頬にキスを返す彼女にやや不満は残るが、その反応も半分は予想していたものだ。どうせ、適当に誤魔化そうとした台詞だと思っているんだろう。
 軽く溜息を吐き出し、自分達の子供がいるであろう彼女のお腹を優しく撫でる。その時、またタイミングよくぽこりとお腹を蹴る感覚があった。
 元気な我が子達が彼女の中で生きていることを確認し、降谷は優しく微笑んだ。
「今こうして幸せなら、なんでも構わないさ」
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