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渦潮に飲まれる



時間の長さなんて関係ない。
良い子だからって関係ない。

私の方が彼を想っているからって――――

その恋が実るとは限らない。




ずっと彼を想って来た。誰よりも一番。長い長い片想い。

でもそんな彼は別の女性を好きになった。

それでも良かった。女性も彼が好きで、とても良い人なら。私だって潔く身を引いたのに。
そんな素敵な人になら完敗でいいやって。仕方ないって思えるから。でも……
彼を大して好きでもない女性に負けてしまうのは、たまらなく嫌なの。私はこんなにも想っているのに。どうしてよりによってその人なの?って。


彼が好きになった彼女は浮気性だった。それどころか、彼女が彼を好きなようには全く見えなかった。それでも彼女は彼の前で良い顔をする。

「私と彼は体だけの関係よ。この先恋人になる事はないわ。だから貴女が彼を好きなら応援する」

どう言う考えでそんな事を言ったのかわからない私には、その言葉が悦に入っているようにか聞こえなかった。お願いだから、この恋は報われなくても仕方なかったって、私は素敵な恋をしたって、そう思わせてよ。私はずっと一途なのに。嫌だよ。こんな人に好きな人を取られるなんて……

くるしくてくるしくて。あの女はいずれ自分にしっぺ返しが来るんだからって。あんな女を好きになる男なんてって。そうやって人のせいにして自分の心を守ろうとしたけれど。人のせいにした代償に、今度は自分の心がどんどん荒んでいくのを感じて。ならそんな考えを捨てれば良いって思うのに止まらない。人が誰を好きになろうとその人の自由でしょ。そんなんだから彼が振り向かないんだよって。自分で自分を責め立てては、もやもやした感情と決別する事はできなくて。

――――結局私は、”良い子”って言う可愛いブランドが欲しいだけなんだ。


こうなってしまったらもう、この感情の渦から脱出する事は出来ないの……?




「……おい」
「……何?リヴァイ」
「寝てねぇのか?ひでぇ面しやがって」

そんな時ごく自然に隣に来た彼。そう、いつだって彼は。さり気なく寄り添ってくれる。
普段なら鋭く聞こえる声も。今はとても柔らかく私の身体を包み込んでくれているかのようで。
涙を誘うその声の暖かさに、感情を抑える事なんて出来なくなって。

「…………ぁ、うっ、ぅぅ……リ、ヴァイッ」
「……だからやめとけと言ったんだ、俺は」

何でもお見通しのリヴァイ。私が泣いている理由も何もかも全部分かっているんだ。
無言で差し出してくれた綺麗な白いハンカチが、たちまち灰色の海となって広がっていく。

「だ、ダメだよ」
「あ?」
「だって……わたし。いまそんな、優しくされたら。簡単に流されちゃうよ」
「だったら流されちまえばいいだろ?」
「だ、駄目。リヴァイの優しさをそんな風に利用したくない!だって私……」

一時のいい加減な気持ちでリヴァイに靡いたら、あの女と同じ事をしているような気がして。もし、リヴァイの事を本気で好きな女の子がいたら……その子の目に、私はどう映る?


「何に悩んでるのか知らねぇが、それならお前の気持ちを本物にすりゃ良いだろ」
「……え?」
「失恋したからって好きな男への気持ちがなくなるわけじゃねぇ。だから無理に感情を消そうとしなくていい」
「でも、そんな!それでリヴァイを好きにならなかったら、わたしっ!リヴァイを傷付ける事にっ」


「リサのためなら、何度でも傷付いてやるよ」
「!」

良い子を好きになってくれなかった大好きなあの人への気持ちと。
そんな女を好きになる男に恋する私への気持ち。

いつも平然としているリヴァイも、この理不尽な感情の渦に飲み込まれていたの?


「好きな女から受けた傷は、名誉の証だろ」
「………………バカ」
「あぁ、そうだな。誰かさんのがうつったんだろ」
「……人のせいにしないでよ。名誉なんて微塵も興味ないくせに」

私に傷付けられている事を否定しなかったリヴァイ。私は人のせいにするとても醜い人間なのに。それでも丸ごと、私を受け入れようとしてくれる。

…………もしかしたら。
彼女も、彼からちょっとの慰みをもらっていたのかな?一時でも流されてしまうような何かが、私の知らない所で。

リヴァイの事を本気で好きな子がもしいたら、きっとその人は私を嫌うのでしょうね。リヴァイを1番に想っていない私を。他に好きな男がいる私を。でも今は、この優しさに縋ってみたいと思ったの。


私と一緒に心の渦に飛び込んでくれたリヴァイに、今度は私が寄り添えるように。
この渦が消えて穏やかな波になった時――――きっと答えが出せるから。






更新日:2020/06/28

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