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「ところでファーラン。さっき、私の服を買ってくれたって」
「ああ。……お前今着てるのしかねぇだろ?だから買って来たんだが……女物とかわからなくてな。とりあえず女物の白いシャツに、動きやすいズボンってだけなんだが」
「十分だよ。ありがとう!」

受け取った麻袋の中を見ると、無地の白いカッターシャツに、下はベージュのパンツだった。シンプルだけどとても動きやすそうで、それが2枚セットで入っていた。替えまで用意してくれてとてもありがたい。
それらの服を漁っていると、一番底に隠れている白い物に気付く。これは何だろう?と思って麻袋から引っこ抜いた。

「あっ……バカ!」
「……………………」

慌てたファーランが止めに入ったが、もう遅い。私が手に握り締めている物、それは下着だった。と言っても私の世界にあるようなカラフルで可愛らしい見た目の物や、胸のシルエットを綺麗に魅せてくれるようなブラなどではなく、白いスポーツブラのような物だった。ショーツも勿論飾り気のないシンプルな物。
下着が入っていたことには内心驚いたし恥ずかしかったけれど、何よりそれを買ってきてくれたファーランが一番気まずかっただろうと、下着を麻袋に突っ込んだ後、すかさずお礼を言う。

「ファーラン、その……本当にありがとう」
「……いや、まぁ……」
「だって女物の下着だし……買い辛かったと思うし……それなのに選んでもらっ」
「ちょっと待て!勘違いすんなよ?確かに服は俺が選んだが、下着に関しちゃ商人の姉ちゃんに適当に言って見繕ってもらったんだからな!」
「あ……そうなの?」
「勘弁してくれよリサ……」

そんな2人のやり取りに終わりが見えたからか、ただ静観していたリヴァイが口を開く。日光が当たらない此処では洗濯物が乾きづらいからその辺考えて着替えるようにと。なるほど。確かにそうだ。しかも此処は乾燥機どころか脱水もかけられないから尚の事乾きは遅そうだ。早速今着ている服を洗ってどのくらいで乾くか試してみよう。

「あ」
「今度はなんだよ?」
「部屋此処しかないんだよね?え、この世界の人って男女気にせず目の前で着替える文化とか……」
「ねぇよそんなもん!おい、リヴァイ!いったん出るぞ」
「ちっ……めんどくせぇな」
「えっあ、待って!何も外に出なくても良いんじゃない?後ろ向いてくれればそれで……」

さすがに着替える度、外に出てもらうなんてリヴァイの言う通り面倒だろう。そう思ってすぐに引き留めたら、2人は私に背を向け大人しくしてくれた。麻袋から下着と服をそれぞれ1セットずつ取る。とは言っても、男性のいる部屋で下着も脱いで着替えるなんて今までなかったから、やっぱりちょっと気まずい。そんな時、私が付けてきたブラのフォックを外す音が鳴ってしまう。静けさが増している今はその音が予想以上に響いて羞恥心が芽生えた。それからは衣擦れの音が極力出ないように妙な緊張感を持って着替えていたのだけれど、ついに耐えられなかったのかファーランが声を上げる。

「俺やっぱ外出てるわ!ほら、リヴァイも行くぞ」
「……………………」

先程めんどくさいとか言ってたリヴァイもそそくさと外へ通じる扉へ向かった辺り、結構気まずかったのかもしれない。2人には悪い事をした……。
けれど、ファーランの手がドアノブに掛かって今にも開きそうな所ではたと気付く。

「ちょ、ちょっと待って!そこにいて!」
「?!」
「……」
「あ……えっと!」

私の格好はと言うと、上は既に着替え終わっていて、下は自分が履いてきたパンツ(ズボン)を脱いだ所だった。つまりはカッターシャツに元の世界から履いていた薄水色のショーツ……この状態で扉を開けられてはまずい。まずいけれどまさか今の格好を2人に伝えるのもそれはそれでちょっと、と思うと言葉が出て来ず、こうなったらと思い切って着替えを再開した。

「ッ!」
「おい」

衣擦れの音で分かってしまったんだろうけど、構うことなく着替える。高速で。そして終えた事をすぐに伝えたら、ファーランではなくリヴァイからお小言をもらう。

「てめぇは男に着替えの音を聴かせる変態的な趣味でもあんのか?」
「そ、そんなわけないじゃないですかっ!」
「ほぉ?さっき、俺らが出て行こうとした時、そこにいろとかほざいてやがったが?」

そう言われて少し考える。こちらとしては、扉を開けないでと伝えたかっただけだ。でもリヴァイ達からしたら?出て行こうとしたにも拘わらず呼び止められ、すぐに着替えを再開した私を痴女だと認識しても不思議ではない、かもしれない。訂正しなくては。

「そうではなくて!あの時扉を開けられては色々見えてしま」
「ああああああ!もういいだろその話は!リヴァイも蒸し返すな!終わったんだし!」

ファーランから、今後は私が着替える時はやっぱり外に出ると言われ、素直に頷いた。まさか私もこんなに気まずくなるとは思ってなかったんだ。




その後、これから一緒に暮らすなら役割分担しようと私が話を持ち掛けた。例えば料理は私がするとか、2人の外出時に掃除をしておくとか。

「起床後にするのが1番良いと言っていたのはお前のはずだが?」
「言ったけど絶対じゃないし。ましてお仕事は不規則なんでしょ?だったら出来る時にやっておいた方が良いと思うけど」
「あ?てめぇ掃除をなめんじゃねぇ」
「自分だってその事は知らなかったでしょ!もー余計な事言わなきゃ良かった!」
「あ?」
「今度から掃除の知識はリヴァイの前ではひけらかさないようにする!」
「………………他にもあんのか?」
「何その期待の眼差しは。今更そんな目をしたって教えてあげないから」
「ちっ…………」
「お前ら仲良いな……」

どこをどう見たら仲良く見えるんだろうか?こっちは良かれと思って言ったのに、リヴァイは見るからに不機嫌になるし。よくわからない人だと思ってたけどもしかして案外分かりやすい?笑ったりはしないけど、機嫌が悪い時は眉間に皺寄せて睨んで来たりするから結構顔に出てるし。

「言っとくが、この家が安全だって保証は何処にもねぇ。だから俺らがいない時は戸締まりはきちんとしてもらう。換気が必要な掃除はどっちみち1人じゃできねぇんだよ、わかったか?」
「いやわかったか?じゃなくて、それならそうとそっちを先に言ってよ!」
「はいはいストップ!もう良いだろ2人とも。頼むから俺の心労を増やさないでくれよ……」

仲裁してくれるファーランに悪いから何とか堪える。納得は全然いかないけど。とにかく、家事の役割のうち、掃除については換気のため、洗濯物については外に干さなければいけないと言う理由で1人ではやってはいけない事になったから、出来るのは料理くらいになってしまった。
それ以外では、腰に付けていた不思議な機械である、立体起動装置や護身術を教えてもらう事になった。要は此処で暮らしていくための処世術だ。

「言っとくが、教えた所で所詮付け焼刃だ。自分の力を過信すんじゃねぇぞ」
「うん。護身術はあくまで逃げるための隙作り。基本は逃げるし、そもそも危ない事には関わらないようにする。それが鉄則だよね?」
「………………わかってんならいい」

そもそも平和な所から来た私にいきなり外に出て一緒に仕事しろと言うのも無理な話だ。ただ、換気のための窓開けくらいはそのうち許してくれたら良いなって。そのくらいの願望は持ってても良いでしょ?じゃなきゃいつまでも何も出来ないままだから。共同生活をする以上、出来ることは増やしていきたい。
――いつ、元の世界に帰れるかわからないのだから……。


あとがき
まだこの感じが続きます。
悔いなき選択の話を終えたらサクッと時を進める予定だったのですが、更に掘り下げていっそ長編にしてしまおうかとも考えています!
特に結末に矛盾は起きないので書きながら考えますね♪

更新日:2020/06/13

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