彼女がジャーファルに惚れた理由
謝肉宴からまた月日が経ち、留学生を乗せた煌帝国使節団がシンドリアに来た。
練紅玉の友人であるエナも、密偵部隊の3人でその場に立ち会っていた。
船からゾロゾロと降りてきたかと思うと、練紅玉がシンドバッドに襲われたなどと言い始め、一同は呆れ顔。
シンドバッドの酒癖の悪さは誰も信用していない。
まあ、ヤムライハの魔法のおかげで無実を証明することができ、夏黄文も練紅玉に許しを得、事態は事なきを得たのだが。
ジャーファルは夏黄文に唾を吐きつけた。
隣に居たエナも呆れ顔で夏黄文を見た。
エナ「夏黄文さん、貴方姫を利用して…ぐっ!」
そう言い放とうとしたエナに慌てた夏黄文は彼女の顎を手で持ち上げ、顔を近づけてきた。
夏黄文「イタズラな唇でありますね、キスしますよ」
エナ「そういうのはお断りです」
夏黄文「私と貴女の仲でしょうが」
エナ「仲も何もありません」
夏黄文「あるでしょ、秘密を共有した仲が」
エナ「耳元で喋らないで下さい」
ジャーファル「はあ、行きますよエナ」
それを見ていたジャーファルはため息をついて近寄り、エナの腕をひいて歩いた。
エナ「ご苦労です、レスキュー隊」
ジャーファル「違うでしょう、元はと言えばエナが任務でばれたからこんな事に」
エナ「イエッサー」
ジャーファル「反省の色無しですか」
エナ「シンバが煌帝国との関係に役立ったって」
ジャーファル「シンはデメリットを考えてないだけですよ」
エナ「でもデメリットは私にしか降りかからないのよ」
ジャーファル「私にも降りかかってますよ」
エナ「ごめんなさい」
ジャーファル「許しませんよ」
エナ「許してもらう方法…、残念だけどピスティがよくやる上目遣いはまだ修業中だよ」
ジャーファル「…覚えなくてよろしい」
エナ「ジャーファル、鼻血!もしかして想像した?」
ジャーファル「バカ!なにか拭くものを!」
エナ「パンツがあるけど?」
ジャーファル「デジャヴ!」
*
エナ「姫様、フルーツポンチを作って参りましたよ」
練紅玉「あら、美味しそうね!」
エナ「4種のフルーツを入れております」
練紅玉「へえー」
エナ「喜んで頂ければ幸いです」
練紅玉「ねえ、エナ」
エナ「はい?何でしょう?」
練紅玉「エナは、本当に夏黄文の恋人なの?だって、エナはシンドリアの国民なのでしょう?」
エナ「確かに、そうですね」
練紅玉「本当は、シンドバッド王の恋人なのではなくって?」
エナ「え!?そんな訳がありますか!違いますよ」
練紅玉「そう?でも、夏黄文の恋人では無いわよね。夏黄文を拒否していたものね?」
エナ「はい、事実を申し上げますと。私はここの政務官と交際しております」
練紅玉「はあ…やっぱりそうだったのね」
エナ「申し訳ありません」
練紅玉「そうなら早く言ってくれれば良かったのに。ねえ、貴女の恋の話を聞かせて!」
エナ「え、退屈かもしれませんよ?」
練紅玉「何でもいいわ!エナはどんな恋をしているの?」
エナ「興味をお持ち頂けて嬉しいです。では、大した事のない話ですが1つ」
練紅玉「何!?」
エナ「私が彼に恋に落ちたきっかけです。14の時、誰かを好きになることなど出来ないと言った私に、それなら俺を好きになればいいと、彼は怒鳴ったんです。
その後も、戦ったり何かに懸命になる彼の姿を見ては何度も素敵だと胸を打たれましたよ、もしかしたら、その都度、何度も繰り返し彼に惚れているのかもしれません。
私、相当惚れ込んでいますね。
けれど、1番初めは確実に、その言葉です」
練紅玉「はぁぁ、素敵ねぇ」
エナ「ふふ、まさかこの様な話を人様にする時が来るなんて」
練紅玉「初めてだったの?その割には話慣れてる、といった感じだったわよ?」
エナ「そうですか?では姫様にお褒めに預かったこの話を、彼にも話さなくては」
練紅玉「いいわね!」
エナ「ありがとうございます」
*
シャルルカン「ジャーファルさん、これ要ります?」
ジャーファル「何ですか?これ、カセットテープ?」
シャルルカン「まあ聞いてみてくださいよ!」
言われた通りカセットテープを流して、悶絶し倒れたジャーファルをエナが見つけたのは、その日の夜のことだった。
*
【その都度、何度も繰り返し彼に惚れているのかもしれません。
私、相当惚れ込んでいますね。】
ジャーファル「ああああ!可愛いいい!」
その後、エナはジャーファルに、彼にとって既に予習済みである同じ話をした。
エナ「あれ、何で笑ってるの?」
ジャーファル「私、今幸せです」
エナ「私もだよー」
28.3.31
偶然通りかかったので録音しといたシャルルカンさん