彼女と危険な夏黄文
煌帝国。
以前は極東の小国だったが、
最近勢力を伸ばし、たった数年で極東を制覇した軍事国家。
そんな煌帝国が次に狙っているのはバルバッド王国。
煌帝国の口車にのせられたアブマド王は、国民を奴隷として売ろうとしていた。
シンドバッド「エナは、もう着いた頃か」
ジャーファル「そうでしょうね、彼女の健闘を祈りましょう」
シンドバッド「それが彼氏の発言か?」
ジャーファル「そうですよ、あの仕事は彼女だからこそ出来るものだと思っています」
シンドバッド「そうか」
ジャーファル「ところでシン、どうでした?」
シンドバッドはアリババに王になるよう頼んだが、断られたのだった。
シンドバッド「いい答えはもらえなかったよ」
ジャーファル「そうですか」
アリババ「シンドバッドさん」
ジャーファル「アリババ君!」
アリババ「俺に…ジンの使い方を教えてください」
*
アリババとの稽古が終わって体を拭くシンドバッドと、そのお付きのマスルールのいる部屋へ、ジャーファルが入ってきた。
ジャーファル「ヤムライハから連絡がありました。奴らの影が、間違いなくこのバルバッドで蠢いていると」
シンドバッド「やはりな」
ジャーファル「エナは煌帝国を追ったところ、バルバッドの王宮に行き着いたそうです」
シンドバッド「そうか、まあ婚約者となればそうだろうな、だがエナには煌帝国までちゃんと付けてもらう。
こうなれば時間の勝負だ。明日は俺も少し動いてみようと思う」
ジャーファル「と言うと?」
シンドバッド「あの煌帝国の姫君と話を付けに行く。アブマド王との婚約者だろうからな」
ジャーファル「でも、そう易々と話せるでしょうか?」
シンドバッド「大丈夫だろ?彼女は話を聞いてくれる女性な気がするんだ」
ジャーファル「…あ、そうですね」
シンドバッド「ん?どうしたジャーファル?」
マスルール「七海の女ったらし」
ジャーファルは部屋から退室した。
シンドバッド「まあ万が一の時はエナもいるしな!」
マスルール「エナさんを何に使う気ですか?」
シンドバッド「色仕掛けで何とかしてもらうとか、な!」
マスルール「ジャーファルさんに怒られますよ」
*
その頃エナは、バルバッド王宮の中へ潜入、陰に隠れて練紅玉と夏黄文の様子を見ていた。
どうやら練紅玉は、アブマドとの政略結婚に不満があるようだ。
練紅玉「分かってはいるわ、でも、折角迷宮攻略もして金属器も手に入れたし、私は武の道を歩みたかった。それに…恋だってしてみたかった」
エナ(恋…?)
夏黄文「姫君…これは、陛下の勅命であります。それに、結婚式には兄王様もいらっしゃいます」
練紅玉「少し気が迷っただけよ」
エナ(まさか練紅玉、シンバにあの時!!)
練紅玉「ねえ夏黄文、何だか王宮の中が騒がしくない?」
夏黄文「結納品の検品でもされているのでしょう、もしくは明日の調印と婚礼の儀の準備」
練紅玉「…ん?」
練紅玉と夏黄文、そしてエナにも、ジュダルのルフが目に見えていた。
練紅玉と夏黄文は様子を見に行くようだ。
2人の後を追ったエナは、僅かに開いた扉、その近くにいた兵士の気を失わせ、服を借りて中へ入った。
練紅玉「騒ぎを聞きつけて参りました、私は煌帝国第八皇女練紅玉。アブマド王の婚約者です。
失礼、私まだ国王様の顔を存じ上げないの、どなたが国王様かしら?」
エナ(前にここに潜入したアルコによればスタイルはガタガタ…あ、アブマド王はあの人、)
アブマド「余!余である!」
練紅玉「んっ、そう」
銀行屋「それがですね姫君、」
エナ(銀行屋?)
銀行屋は、アブマド王が退位したことを告げた。
練紅玉「私はバルバッド国王と婚姻し、条約を結びに来たのです。どなたになろうと変わりありません」
新しい国王を決めろと急かす練紅玉に、アリババが前に出る。
アリババ「貴女を煌帝国の代表と見込んでお願いがあります」
練紅玉「何かしら?」
アリババ「明日結ばれる、バルバッドの人間異常条約を破棄して頂きたい。あれは前王が決めたこと!他は皆、人権異常条約など望んでおりません!」
練紅玉「そのようね、だけど条約破棄はできないわ、これは国同士の取り決めだから。私は明日、新しい国王と結婚し、
アリババ「それはできません」
調印式を行い、
アリババ「それも出来ません」
貴方何を言ってるの!」
アリババ「バルバッドは今日で、王政に終止符を打ちます!
バルバッドを、格差のない共和制市民国家にする!それが今日、俺が提示しに来たことだ!」
エナ(驚いた、まさかアリババ君がこんな事を考えていたなんて。彼は間違いなく、シンバとはまた違う形の、人を引っ張る力を持っている)
シンドバッド「やれやれ、それが君の答えなんだね」
エナ(シンバ!あと、連合国の外交官!)
突然のシンドバッドの登場に、場はどよめく。
シンドバッドはアリババを王にする為に、外交官を3人連れてきた。
*
エナ(結果、アリババの押しの弱さに負けた練紅玉は七海連合の証明、と言う名のシンバと会う約束を取り付け退散か…この件はシンバも立ち会ってるから、伝えなくて大丈夫ね)
その後エナは、兵士を装い煌帝国まで付いていく事にした。
エナ(あれ、ジュダルがいない。ジュダルは煌帝国の神官を勤めているはず)
夏黄文「姫君、神官殿はお連れしなくて良いのでありますか?」
エナ(それだよ、それ)
練紅玉「良いのよ、銀行屋が任せろと言うのだもの」
エナ(…銀行屋、あの怪しい男か)
練紅玉「早くお父様にバルバッド国の王政廃止を伝えなくては!シンドリア国王との約束の件も!」
エナ(練紅玉…シンバに騙されたただの乙女ね)
*
そうして、練紅玉達は煌帝国へと帰ってきたのだった。
エナ(兵士になって潜り込んだは良いけど、その兵士は今何をする時なんだろう…)
夏黄文「あれ、貴方。稽古はもう良いのですか?」
エナ「す、少し具合が悪くて」(今稽古の時間だったか…!)
夏黄文「本当ですか?」
エナ「あああ、はい、何か?」
夏黄文「女兵士は雇った覚えが無いのですが」
エナ「え!」
夏黄文は逃げようとしたエナの手を引き、胸を触った。
夏黄文「この私の目が騙せるとでも?バレバレだよ、シンドリアのスパイさん」
エナは呆気なく夏黄文にバレたのだった。
*
夏黄文「どうしますか?身体でも売りますか?」
エナ「それは勘弁を…!」
夏黄文「命は保障してあげましょう。ただし、貴女は何をしてくれるのですか?」
エナ「じゃあ…、自己紹介します」
夏黄文「もう知ってますよ、シンドリアのスパイ、名前はエナでしょう」
エナ「ソースは煌帝国のスパイですか」
夏黄文「ええ」
エナ「はあ」
夏黄文「何も思い付かないのなら、こちらから提案させてもらう」
エナ「…もう任せます」
*
練紅玉「へえ!貴女も戦えるのね!」
エナ「戦力にはなりませんが、少しなら」
練紅玉「もっと自信を持って良いのよ!女は戦えるだけ凄いんだから!」
エナ「ありがとうございます」
練紅玉「そうねえ、じゃあ…」
エナ(私はシンドリアの密偵部隊、隊長。
なぜ楽しそうに姫様と会話しているかと言うと、話は数時間前にさかのぼる)
夏黄文「頼む!姫君とお友達になってくれ!」
エナ「お友達!?」
夏黄文「ああ、姫君の友達の少なさが心配で心配でハゲそう!」
エナ「夏黄文さんフッサフサなんで大丈夫だと思いますよ」
夏黄文「エナ、私に任せると言ったな?」
エナ「言っちゃいました」
夏黄文「ついてきなさい」
エナ「え!?」
夏黄文「姫君!長らく紹介せずにおいて申し訳ありません、私、お付き合いさせていただいている女子がいるのであります!」
エナ「どうも、お付き合いさせられてます」
夏黄文「彼女の名前はエナ」
エナ「良しなに」
練紅玉「貴女!良いわねえ!」
エナ「どうかしましたか?」
練紅玉「足の筋肉が程良いわねえ!」
エナ「…え?」
やや強引な嘘で夏黄文に紹介され、足の筋肉を気に入った練紅玉と肉体美の話をして、エナは今に至る。
その後、また練紅玉の話に付き合い、剣術に付き合い、エナは王宮内で食客同様の扱いをされて過ごした。
エナ(必要な情報は全て姫様が喋ってくれた、もうそろそろ帰国を…)
*
練紅玉「お産で里帰り!?素敵ね!」
エナ「ど、どうも…」
夏黄文「エナ、待っていますよ」
こうして、一応姫様ではあるが練紅玉という男みたいな女友達を作り、
潜入捜査はやや成功に終わった。
またもや夏黄文のついた嘘に付き合わされて、
お腹に果物を詰め、それを手で押さえながらエナは帰路へとついた。
28.3.31
報告書に何書くか頭抱えるエナさん
意外なことに、ジャーファルと夏黄文は同い年だとか、、