音駒にスケット・ダンス



五本指に入るスパイカー、なんだってな。生き別れた弟の称賛の声は耳に心地よく響いた。


「光太郎、元気してたのか」
「してた、けど。陽。まだバレー続けてくれてるのか」
「当たり前だろ」


陽と光太郎は小さい頃に袂を分かっている。

原因は親の離婚だ。俺には親父が残って、再婚したので今は新しい義理のおふくろがいる。反対に陽の方にはおふくろが残った。東北の実家に帰ったことは(俺がバカだったせいで)高校生になってから聞かされたが、離婚となると名字を旧姓に戻してしまうがなんだかで、探すヒントはひとつもなかった。
だから、バレーだけは続けていようと思った。そうしたら陽と再会できる。いやもっとも、最近はインハイ、春高と目の前に広がるバレーの世界に目が眩んで忘れていたのだけれど。


「バレーなら、バレーやってたらまた会えるだろ」



「ごめん、陽。最近はめっきりお前のこと、バレーに夢中で忘れてて…!」
「いいって光太郎。 ただバレーやってたって意味ねぇんだ。強くて有名じゃなきゃ会えねえ。俺、ここまで頑張ってきて良かった」
「ぜ、全国には出ねぇのか!?」
「出るけど」
「また会えるんだよな、な。よかった!」
「え?ちょっと気が早くない?」







背は木兎さんよりも高い。歳は赤葦と同じ高校二年生。木兎さんと同じDNAを持っているのだが、共通点は全くと言っていいほど無し。

「あれで同じ遺伝子を持ってるって…木兎、お前どこで道間違えたんだ」
「さっぱりだ」

木葉さんの鋭い指摘をはらりと躱す木兎さん。同学年で、噂の北来陽。赤葦は交互に二人を見た。

「木兎さんのお父さんって、怪人百面相か何かでしたか」
「は?」
「まず顔からして全然違いますね」

先程は試合の合間にも関わらず熱い抱擁を交わしてコーチに怒鳴られていた木兎だったが、やっぱりどちらの顔を見ても同じパーツは1つもない。これで兄弟って、凄いな。そう関心させられる程の違いである。

その間にも試合は回っていく。また一つローテーションをして烏野の小さい子とマッチアップした木兎さんだったが、その脳内はきっと北来陽でいっぱいで、変人速攻を相手するどころではない。別に予知ではないが、危険を察知してしまったので木兎さんに歩み寄り耳打ちした。

「舐めてたら、痛い目に合いますよ」







「勉強舐めてっから痛い目に合うんだよ」
「研磨、黒尾さんってそんな勉強できんの?」
「いや、できないと思うけど」
「研磨ァ!!」

テスト赤点。ゆえに試合への遅刻が原因で烏野に入れてもらえなかった。
ここにお前の居場所はないからな。プロ野球で言う戦力外通告、いやチームに打撃コーチとしても残してもらえなかった。FA権を行使してどこへでも行きやがれと烏野の烏養監督やチームメイト、さらには潔子さんにも見放された陽は、無駄に長い胴体を丸めてトボトボと音駒に合流した。

「陽、リエーフに得点数で負けたらウチからも出てってもらうからな」
「待って黒尾さん!ちゃんと酸素回すから捨てないで!!!てかリエーフってヤバくない?助っ人外国人だよね?高校レベルじゃなくない?プロ野球じゃない?」

思った矢先に、ロシアンブルーっぽい猫目の男がまた陽の視界に映る。俺の高緯度すぎる視界に人の顔が映ることはあまりないから慣れない。てか気持ち悪い。どこの出身か聞くと、案の定ロシアと返される。やっぱりロシア、高緯度なだけあるな。

「北来さんってどこのご出身ですか?」
「ごめんなさいね日本で」
「いや、何で謝るんすか…」

「それよりリエーフ。スケートって知ってる?常々思うんだけどスケートってバレーより楽しくね?リエーフくらい長い足があったらスケートでオリンピックも夢じゃないと思うんだけどさ」
「北来さんも十分長いと思います!」
「いやそれはどうでもいいんだよ」

「おい。陽の奴、何でスケートプレゼンしてんだ」
「そりゃ立場が危ういからじゃ、」

「でさ。ど?スケートに転向するってのは」
「え?いや。いいです。俺はこのバレーって決めたんで!」
「背高いのは俺一人でいいと思うんだけど!!」
「いいじゃないですか。仲良くやりましょうよ」
「あああ帰りたい!!!」
「いいぞー帰っても」
「違う!そういう意味じゃない!烏野に帰りたいあああああ!!!」


「ほんっとにお前はどこにいてもうるさい!音駒さんに迷惑かけるんじゃない!」
「いえいえ、そんな迷惑なんてこれっぽっちも」
「いやいや。うちのがお世話になってます」

「キャープテええええん!!!」
「そういう時だけキャプテンって呼ぶな!!」


烏野のキャプテン澤村と音駒のキャプテン黒尾には言い表せない威圧感が漂い、その周りを迂回する喧しい北来陽がいる。その様子を眺めていたら、知らぬ間に赤葦は先程の問題の答えに辿り着いた。

「共通点。二人とも煩わしい」

「え?あかーし何?」






やっぱりWSっていいな。

久々にWSのポジションでコートに立つと、やっぱり景色が違う。最高だ。
烏野ではしばらくMBを任されていたせいか、まだローテーションではリベロと交代してコート外に出なきゃ!と足が動くけれど、それを除けば結構いい。



「千鹿谷ナイッサー!!」



スパッッッ

「ナイス陽!」
「よっしゃぁぁぁぁ!!」
「調子乗んな!たかが一つのレシーブだろーが!」
「すんません!!」
「…う、うるさい」

自信いっぱいにサーブを打ってきた森然のルーキーの心だって、今なら簡単に折れる気がする。

「すみません!」
「千鹿谷いいから後ろ!」
「はい!」

あそこで自分の番はいつかいつかと腕をプルプルさせているオコエを待たせるのも気分がいい。いいぜ俺が代わりに出てやるよ。ずっと選ばれていたいんだ。

「す、すげぇ」
「いいかリエーフ。アレを目指せ」

一旦MBは下がるっつーことで。
黒尾がベンチに下がる時は、陽や猛虎を咎めたり、チームを盛り上げたり。後輩の面倒も見る。



「陽はただ体がデカイだけじゃねぇ。頭を使ってる」
「あたまを、?」
「コートの中で、あえて守備の甘いゾーンを敵さんのために残しておくんだよ。ボールをそうやって誘導して、いざ来たら実はここまで守備範囲あるんだぞって、長い腕で捕まえる」
「こ、こわ。アリジゴクみたいっすね…」
「なんだその例え」


リエーフに陽への恐怖心が植え付けられたことは、間違いないらしい。



30.12.3

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