「リヴァイ聞いて、今日ここまで全部 正夢なんだけど」
「__聞き飽きた」
中央憲兵の根城。
レアとリヴァイの指揮で、リヴァイ班は駐在していた憲兵の足を無力化することに成功した。
「あらかた殺ったな」
「リヴァイ」
「どうした、お前。男なんか引きずって」
服についた草やらゴミやらを払っていると、レアがズルズルと大きな男を引きずってこちらへ来た。
そしていつになく硬い表情で、俺にこう訴えた。
「私、こいつがボスだと思うんだけど」
俺はレアが引きずって来た男の顔をよく確認する。顔面はボコボコで、死んでいるのか生きているのか分からない。
これ……やりすぎじゃねえか。
ボスだとわかったら、ヒストリアとエレンの居場所を拷問で聞き出そうと思っていたのだが、これではもう喋れるかも怪しい。
俺はそいつを端からよく見てジャッジするふりをし、答える。
「お前の目は節穴か?どう考えてもこいつがボス顔だろう」
俺は負けじと今自分の掴んでいる男をアピールした。
「うーん迷うな」
「存分に迷え」
「ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な」
「あの副団長……急いでください」
後ろからジャンが口を挟んだ。
「君に決めた!」
ドゴッッッッッ
「エレンとクリスタはどこだ」
結局リヴァイが掴んでいた髭面の男を選んだレアだったが、大正解。コイツが一番偉い身分でまちがいないようだ。
城から離れ、俺は二人の居場所を吐き出そうと男を殴る。
「……残念だがあんたの部下は助けには来ない。あんまり殺すのも困りものだからな。しばらくまともに歩けないようにはしておいた。これで中央憲兵はしばらく使い物になんねぇよ」
「はっ、勇ましいことで。丸腰の憲兵を片っ端から斬っちまえば、誰でも英雄を気取れる…。
言っとくがあの屋敷には、何も知らない使用人も含まれていた。お前らが見境なく斬った中にも確実にな」
「ああそうか。それは気の毒だったな」
ゴッッッッッッ
「残念だが英雄は人違いだ。時にあいつは加虐心旺盛だが、そこがまた良いんだ。そそるだろ」
口に俺のブーツを突っ込まれても、ヒゲの男は居場所を割らなかった。
「ガハッ ゴホッ ゲホッ!!
無駄だ!無駄なんだよ…!!お前らが…何をやったって!調査兵…お前らにできることは…この壁の中を逃げ回って!!せいぜいドロクソにまみれてセコセコ生き延びることだけだ___!!
それも仲間を見捨ててな!! お前らが出頭しなければ囚われた調査兵は処刑される___!!
お前らがやったことを考えれば、世間も納得する当然の報いだ!!」
「最初は調査兵団最高責任者であるエルヴィン・スミスからだろう」
「へえーそうなんだ。それは良いことを聞いちゃったな」
「____ありがとう、ヒゲ」
ガッッッ!!!
「うっ、うあああああああああ!!!!」
「リヴァイがやらなくてもいいのに」
「黙れ。これは俺の役目だ」
「あなたって意外とサディスティックなのね」
「……ああ」
ドガッッッッッ
「ギャアアアアアアアア!!!」
「ヒゲ。喋る口があるうちに喋っといたほうがいいぞ。前置きしておくが、こいつの方がヤバい。相当たまってるからな」
「リヴァイ、喧嘩売ってんの?」
「しっ知らない!!本当にほとんどのことは教えられてないんだ!!ケニー・アッカーマンはとても用心深い!!」
「アッカーマン?」
「それ、聞いたことがある」
「それがケニー…ヤツの姓か?」
「そ、そうだが」
「確かに奴は大事なことは教えねえよな…しかし心当たりくらいはあるだろ?思い出すまで頑張ろうか」
歯を折られても腕を折られても、ヒゲは俺たちに決して屈しなかった。それよりか俺たちの境遇を嘆くような言葉ばかり吐く。それがこいつの手なのだ。中央憲兵の使う、拷問を止めさせる手。レアと俺のイライラも限界に迫ってきた頃、ヒゲは初めて自分から喋った。
「なあ、レア副団長」
「何」
「お前は、人も巨人も見境なく殺すのか」
「そうだね。あなた達とそう変わらない、人殺しだ」
「そうか......。お前には昔からファンが多かったが、俺はずっと気になっていた。
お前は冷たい何かをはらんだ目をしている.....地獄を見てきたかのような、この世の理不尽さを全て受け入れているような...........」
「...............」
「なあ。お前は一体、何を見てるんだ」
「あんたには分からないわよ」
レアは俯く。レアがそう質問されるのは初めてじゃない。が、こいつは答えを濁した。自分が今何を見ているのかなんて…..聞くのはひどいと言っていた。副団長として、できる限りを尽くしたい。それだけなのに。あの日泣きついてきたレア。それが本心だったのだろう。
「どこの組織も、裏では何やってるか知れたもんじゃないね。
私たちもそうだ。英雄も最強も……陽を浴びるような活躍ばかりしている訳じゃない。
だから明るいところにいる人を見るほど…綺麗に見える。近づきたいと思う。
でも、彼らに同じ想いはさせたくないんだ。汚れ仕事に手を染めるのは自分で十分だって思う。
私は彼らを思えばこそ、今ここに立っていられる。
あなたが今ここで歯をくいしばるのも、あなたにはあなたの眩しい人がいて、その人にこの闇を見せたくないと思っているから。そうでしょ。
私もそう。あの人には……前を向いていてほしい。
だから。お前。次にその口であの人を貶してみろ。声帯を潰すからな」
「あんたら…...まともじゃない」
「かもな」
そうか………。俺たちはもうまともじゃねえかもな。
だが、俺たちはいつだって自らの意志でこの道を選んできた。
「お前はどうだ?リヴァイ。お前の眼は曇ったままか?」イザベルとファーランをなくした、あの日から。悔いを残したことは一度もない。
あいつらのためにもそう言ってやりたい気持ちは山々だが____実は一度だけ、後悔した。
「……私って、いらないのかな」数年前。壁外で生まれたままの姿になったレアが、静かに涙を流していた。その時実験は佳境まで、奴の精神は限界まで来ていた。
何がここまでレアを追い込んでいたのかは俺にも分かっていた。
分かっていたのに、助けてやることができなかった。
「兵長!向こうから何者かが来ます!!」
「何だと…」
「言ったろ兵長…。もう無駄なんだよ…何もかもな…
お前達のやってきたことを償う時が来た。調査兵団はここで最期だ」
その日から俺は決めているのだ。
もうレアにあんな地獄は見せないと。
それはレアがエルヴィンに前を向いていてほしいと思うのと同じだ。
俺もレアの夢を自分のことのように願っている。
お前が流した涙と、辛い気持ちの代償は
ウォールマリア奪還ごときで到底、間に合うものじゃねえ____
レア、お前には幸せになってほしい。
「聞いてくれ!!!
調査兵団の冤罪は晴れ、君たちは正当防衛。
我々は、自由の身だ…!!」
「レア、これも正夢の内か」
「......ああ、そうだよ」
「......おい。お前、何泣いてんだ。夢で予習済みの奴が泣くか?普通」
「り、リヴァイ。ハグしてもいい?」
「___ハンジ。俺をぶん殴れ。怪しい。実は俺はまだ寝ていて夢を見てる疑いがある」
「...夢じゃないから早くハグしてあげなよ」
月の裏
30.8.13
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