29やさしい傷口



公式発表としては… 

憲兵団が秘密裏に開発した新型立体起動装置を用いて 現在手配中の残存調査兵団と交戦 


人類最強とされるリヴァイ兵士長、人類の英雄レア副団長を取り逃がし両員が多数死傷する事態に…






「ダメだ!まだ待ってくれ。我々もまだ何が起きたのか把握できていない」

新人記者とベテラン記者二人を相手に状況をまだ把握できていない憲兵団師団長 ナイル・ドークは困惑していた。

「すいませんドークさん 中央憲兵に関わることは一切記述しませんので」

「助かるよ、ロイ…。

新型立体起動装置の話もナシだ。連中があんなもん作ってやがったとはな。中央憲兵の報告を受けるまでは待ってくれ」




新型立体起動装置…散弾なんぞ巨人には無力だろうが人を殺すならそれだ。

…まさに調査兵団を殺すためだけにある兵器。


















新型立体機動装置と呼ばれるそれに身を包んだ兵士が数人、二人の男のところに集まる。




「あのかわい子ちゃんを逃したのか」

「悪いか」

「もうあの女追って何年になる…お前。さすがに気持ち悪いだろうが」

「さあな。相変わらず、幸が薄そうな顔をしていた」

「……….同感だ」

「は?」

色素の薄い髪色の男が、初老のハットの男にジト目を向けた。
てめえに何がわかるんだよ、とでも言いたげな凍りついた視線に、ハットの男は乾いた笑い声をあげてこう言った。


「俺も会ったんだよ。クソガキにな」

「リヴァイだろ」

「お?知ってんのか?」

「知ってるさ。有名だろ。ま、レアよか人気は下らしい」

「あいつらは調査兵団だぞ?嫌われもんが人気なんて馬鹿馬鹿しい」

「一番の嫌われ者はお前だから安心しろ、ケニー」





















「リヴァイ。浮かない顔」

「いや。今俺は最高に高揚しているが」

「へえ。あんたって眉間にしわ寄せたまま高揚するタイプの人間だったんだ」


サネスの拷問を終え、心身ともに疲れ切ってしまった俺の足が真っ先に向かったのはレアが休んでいる部屋だった。
世話係にはサシャがついていたが、俺が部屋に入ると「ご、ごゆっくり!!」と出て行ってしまった。レアがあ〜あ、という呆れ声と共にバカにするような笑みを俺に向けた。

疲労で頭までおかしくなったらしい俺には、何だかそれすらも愛おしく思えて、口元を歪めるくらいの微笑みで許してやった。



「紅茶飲む?」

「ああ」

「結果……どうだった?」

「成功だ。ヒストリアを女王にできる」

「ありがとう。リヴァイ。あなたが辛い思いをしてここまで解明してくれたおかげで、先が明るく見えて来たよ」

「当然だ」

「さすがね。兵長さまさま」

「違う…その当然じゃねえ。当然の仕事を、」

「そう?でもリヴァイのおかげだよ。ありがとう」

「.........ハンジのことも褒めてやれ。あいつがイジけると面倒臭い」

「安心してね、私の中ではあんたがベスト・オブ・面倒」













二日後。レアが体を起こせるくらいに回復したと自分で言い出した時。

ちょうど王政から調査兵団の活動は全面凍結という伝令が言い渡された。


「濡れ衣です…..エルヴィン団長は無事なのですか?」

「分からん。ガキは黙ってレアの指示を仰いでいればいい。勝手な行動とるなよ。根暗野郎」

「怖っ。リヴァイそれ誰のこと言ってんの?部下には優しくしてって約束したよね?」

「チッ......レアに決まってる。バカ」

「あそう。じゃあ中央憲兵制圧 作戦は兵長が囮で」

「いや待てレア。お前はそんなクソ策士だったか。

ああ、最近は腹を集中攻撃されたせいで碌なクソも出なくなっちまったのか……同情する」

「そんな余裕言ってられんのも今のうちだからな。背中に気をつけろよ」

「背中に気をつけるのはお前の方だ。どうしたそのパックリ割れ」


「す、すご….迫力」

「ハブとマングース….」

「憧れの口喧嘩を生で見られるなんて…」

「兵団の危機に何やってるんですか!」

「やっぱりこの男に任せられない….エレンは私が守らないと」

「ちょ!ミカサ!!」


そんな内輪揉めも多少はありながら、新生リヴァイ班 プラスレアは憲兵からうまく身を隠し森の中にいた。

そして彼らに近づく二つの影……憲兵団の兵士二人であった。


「しかしおかしいと思わないか?調査兵団が民間人を殺して逃げ回っているなんて…

彼らは人類のために自分の命をなげうってる集団だぞ?」

「…あんたねぇ忘れたの!? あいつらがストヘス区でやったこと…

あいつらがあの街を戦場に変えたこと、私達が幾つもの死体を運んだこと、


アニがまだ見つかっていないこと」


「…確かにあの惨状は許しがたい…

だが彼らは潜伏していた巨人を見つけだして捕らえることに成功した………壁を破壊されるのを未然に防ぐことに成功したんだ。

そんなことが他の兵団にできると思うか?
調査兵団がこのまま解体されたら人類は」

「静かに!!


………水の音がする」


カチャ…..夜の静けさを壊すように二人は銃を構えた。

こいつ、池で水を汲んでいるのか?髪が長い。女だ。


「酷いですよね___」



ヒッチの隣でマルロが体をガタガタさせながら小さく、短かく悲鳴をあげた。なんと。振り向いた女の顔は中央にも名が知れ渡る、調査兵団のレア・ロンバルドだったのだ。



「じ、人類の英雄......」

「はじめてみた......」


「君たち、そんなことはどうでもいい」

「............え」


「あの人、いつも私を囮にしたがるんです。酷いと思いません?」

「ねえ、こいつ捕らえた方が良いんじゃ...」

「大事にされてるだって?そんなわけがない」

「そ、そうだな...」

「私にやらせとけばなんとかなると思ってるんですよ」

「う、動くな!!!」

「全く、人使いが荒いんだから。

ところで、敵を屈服させる一番の方法知ってます?」

「口答えするな!黙れ!」


「ぶっぶー。不正解。

どうやら、あなた方は勉強が足りないようだ」

「................!!!」

「ひっ、ひぃ!!!!」



ドサッ!!




「正解はね、これです。

____死ぬ覚悟がないなら、最初から銃を持つな」










その後 装備と武器を回収された憲兵二人。コニーは様子を少し離れたところから見ていた。
彼らは丸腰のレア副団長に怯えて、銃の使い方も知らないみたいに二丁を地面に投げ出し、俺達に抑えられたのだ。レア副団長がオススメしていたようにリヴァイ兵長が囮をやっても、きっとうまくいっただろう。本当に恐ろしいのは敵じゃない。上司たちだ。

今回はリヴァイ兵長の作戦が功をなした。


兵長は満足そうにレア副団長の頭を撫でている。レア副団長はその手を嫌がって払っている。


「言ったろ。レアの囮が一番いい。俺達の仕事が楽で済むからな」

「兵長そんなこと言いましたっけ」

「こう言うだろ。普段 綺麗な奴が怒ると怖い」

「常に怖いあんたが言っても説得力ないけど」

「兵長がレアさんのこと綺麗って......」



「ストヘス区憲兵支部所属 マルロ・フロイデンベルク二等兵」

「はい」

「同じく憲兵支部 ヒッチ・ドリス二等兵」

「はい」

「共に104期の新兵か…所属もストヘス区のみ。相変わらず新兵ばかりに仕事が押し付けられる風習は健在らしいな」

「腐ってるね」

「クソだな」

兵長と副団長のディスりは今に始まったことではないが、今日は一段と棘があったように思う。
名前を読み上げられたマルロはなんだか、嬉しそうだ。


二人の着ていた兵服に身を包んだアルミンとミカサが中央憲兵を捕捉するため別行動を始めた。

俺たちはこれから、エレンとヒスとリアの居場所を知るため憲兵の根城に忍び込むのだ。



「憲兵の山狩りの範囲が伸び切った後に決行する。いつでも出られるよう準備しろ」

「はい!!」

「さて。マルロ、ヒッチ。お前らだが」


その時だった。急に女の方、ヒッチの様子がおかしくなったのは。リヴァイ兵長に怯えながらも、彼女は切り出した。


「あっ…….あなたたちのせいでストヘス区の人民が100人以上も死んだのを知ってますか?」


そう遠くないあの、アニを内地で捕らえた日のことを。


「あなた達は…自分が正義の味方でもやってるつもりなのかもしれませんが… あの街の被害者やその家族は突然地獄に堕とされたんですよ?」

「ああ、知ってる」

「あ…..あんた達、南方訓練兵団出身なんだってね。アニ・レオンハートと同じ…..あの子とは仲良かったの?」

「!!」

「いいや…友達なんかいなかったでしょ。あいつ暗くて愛想悪いし、人と関わるのを怖がってるような子だったし…..。

あいつのことまだ何にも知らなかったのに…..あの日以来、見つかってないのは


巨人にぐちゃぐちゃにされて見分けつかなくなったからでしょ!?」



「いいや。潜伏してた巨人の正体がアニ・レオンハートだったからだ」

「ばか、そんな簡単に彼らに言っていいことじゃ」

兵長はレア副団長の口を抑え、続ける。

「ヤツは今捕らえられてる」

「え……?」

「まったくイヤになるよな。
この世界のことを何も知らねぇのは俺らもみんな同じだ。この壁の中心にいる奴ら以外はな…….」




「お前達は….俺らがここを離れるまで拘束するが、出発と同時に解放する」





「…….リヴァイ兵士長。

あなた達が間違っているとは思えません。本当に…..調査兵団がリーブス商会を…..民間人を殺したのですか!?」

「会長らを殺したのは中央憲兵だが、何が事実かを決めるのはこの戦に勝った奴だ」




「俺に協力させて下さい!!

この世界の不正を正すことができるのなら俺は何だってやります!!
中央憲兵を探る任務なら俺にやらせて下さい!変装なんかよりずっと確実なはずです!!」




「…却下だ。お前に体制を敵に回す覚悟があるかなんて俺には計れない。お前の今の気持ちが本当だとしても寝て起きたら忘れちまうかもしれねぇしな」


「モタモタしてると置いてくよ、リヴァイ」

「今いく」

優しさが裏目に出たね。レア副団長はリヴァイ兵長の肩をたたくとそう毒づいた。


30.8.10



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