「上手くいったかな?」
「何で楽しそうなんだよ。気持ち悪ぃ」
替え玉作戦。
エレンとヒストリアの代わりに、ジャンとアルミンをそっくりな格好で連れ歩く。
今頃ホンモノは霊柩馬車に身を隠しピクシス司令の兵舎に移動中だ。
早速そのニセモノが捕えられてしまった訳だが、隣にいるレアは中の様子を気にして.......というより少し興奮した様子で部下の報告を待っている。
最近はつまらないことだらけだったから、こういう面白いことがないとやってられないのだろうか。いやそれにしても気持ち悪ぃ。
その時、ワイヤー音がしてミカサが俺たちの元へ来た。
「中の様子は?」
「急がないとアルミンの変装がバレてしまいます。それに、かわいそうです」
「え?」
「........そうか」
なんでアルミンがかわいそうなのかレアには分かってないらしい。ぽかんと口を開けてどういうこと?と俺に聞いてくる。
「察しろバカ。
.......賊の連中は素人だ。なんであんなのを使ったんだか」
「いやリヴァイ。素人で良かったよ。今はニセモノよりエレンが心配だ。
ミカサ、後は頼みます。賊を捕らえたらエレンとヒストリアを匿う、あの兵舎で合流しましょう」
「はい。レア副団長」
「いつまで付いてくるのよ」
立体機動でお互いに移動しながらも、レアは鬱陶しいと言いたげな目で俺を見た。
「ついてってるわけじゃねぇ。エレンがその先にいるから二人でいるんだろ」
「あんまり団子になるなってさっき言ってたよね」
「二人ならいいだろ。それに何かあった時はお前を守ってやれる」
「はは、何それ」
「お前。なんだそのバカにした笑いは」
「あなたらしくない。リヴァイ。
私を守ろうなんて思わないで」
レアは俺の方を見つめて、そう言った。
立体機動装置が巻き取る音も、風の音も、これまで嫌に耳に張り付いていたのに、一瞬にして消えた。レアの声だけが聞こえた。
「私を守っているあいだに、本当に大事なものを失ったら......もう遅い」
いつになく悲しそうな顔をしていた。
レアはそう言い残してまた後で、と、俺とは別のルートでエレンの元へ急いだ。
「.......本当に大事なものか」
俺の気持ちはレアに全く伝わっていないらしい。まあ、そりゃそうか。いい雰囲気になるのをアイツは嫌うから。
むしろ、逆に俺のことは全てお見通しで、拒絶しているのかもしれない。俺の気持ちに応える気がないからあんな態度をとっているのか。
そうか........それなら、辻褄が合うな。
「兵長」
「どうだ?」
「道が混んでいる以外 異常ありません」
エレンとヒストリアを護送する馬車を見つけ、家屋の屋根に足を下ろすと二ファとゴーグルが既に待機していた。
「目的地まで後少しです。替え玉作戦の方は?」
「成功だ」
「その割には浮かない顔ですね。また、レア副長と喧嘩でも」
「_______いや」
何か妙だと勘づいた。これは中央憲兵が使う手じゃない。奴らは気位が高い。替え玉作戦において素人を使っているのを見たが、奴らは使わない。
そして、どこかで知っているような気がした。
エレンとヒストリアが乗っている馬車を視界に捉えた。そして、自分が狙うモノの立場になって考えてみる。
もしあの馬車を尾行するなら___
目標を集団でつける時は____
「二ファ。切り裂きケニーを知っているか」
「都の大量殺人鬼ですか?憲兵が100人以上も喉を裂かれたという。でも、何年か前に流行った都市伝説ですよね」
「そいつはいる。全て本当だ」
「え?」
「ガキの頃 ヤツと暮らした時期がある」
「え?どうしたんですか急に。こんな時に冗談言うなんて」
_____そうだ。ヤツなら平気で素人も使う。
目標を集団でつける時は両斜め後方と
ガッ、ガッ
見晴らしのいい高台_______
「____!! 二ファ!!!」
ドォン!!!
「よお、リヴァイ」
「大きくなったか?」
屋根をガツガツと靴で踏みしめ、奴は弾倉を交換した。カラになったものは屋根の上から転がり落ちてゆく。
二ファは顔面を撃たれて即死だ。悲惨な死に方をさせてしまった。
俺が、もっと早く気づいていれば.......!!!
立体機動装置のアンカーが倒れた二ファのそばにある煙突へ刺さり、巻き取られる。
奴が来る。
「お、お前もあんまり変わってねぇな」
「ケニィィィィィィィィィ!!!!!!」「__っ!!」
銃声が近くで鳴った。どうやら始まったらしい。
リヴァイとは違う方向からエレンとヒストリアの護送車を見届けるレアの視界に、その瞬間。ハットをかぶった大男が立体機動で空に跳ね上がるのが見えた。
同時に、隠れていた立体機動の奴らが何人も。
「アイツら!!」
護送車の馬の手綱を引いていたハンジの班のケイジが、突然現れた彼らのうちの一人にやられ、道に転がった。
彼がいた席には女が座り、代わりを務めるかのように馬車を進める。
同時にエレンとヒストリアを覆っていたテントの布がアンカーで引きちぎられ、二人を守るものはもう何もなくなってしまった。
なんとしても、彼らを守らないといけない。
じゃないとさっき、リヴァイに言ったことが......彼に合わせる顔もなくなる。
「____ッッ!!」
立体機動のアンカーを男の心臓めがけて飛ばし、引き寄せる。一人目。
刃で首筋を切り裂き息を止め、彼のマントをひらりと靡かせ、私は違う場所へ身を潜めた。
その間も奴らは銃を撃ちまくる。
本当にさっきまで味方だったのか疑いたくなるくらい残酷なヤツらだ。
馬車の走る通りに出ように出れず、私がモタモタしてたせいで、エレンとヒストリアは麻酔銃で撃たれ昏睡状態だ。
「レア!!!」
「リヴァイ!」
馬車の走る通りに飛び出す男が一人いた。リヴァイだ。上手く合流できれば....。
しかし彼は正面から三人の敵と鉢合わせ、何発もの弾に襲われている。
「もうちょっと.....」
敵が銃を装填している間はチャンスで、私は背後からリヴァイを襲っていた三人を刃で倒した。これで四人。
「レア、助かった」
「死ぬなよ」
「死ぬかよ」
頭から血を流したリヴァイに近付いて、お互いに短く言葉を交わした。また道を分かちエレンをのせた馬車を追跡してゆく。
すぐにリヴァイは先程のハットの大男に追われ、迷路のような入り組んだ地形に消える。
私の目前にも、どこから湧いて出たのかまた複数の敵が躍り出る。
「コイツら、キリがない!」
再びアンカーを飛ばして一人、刃で巨人を相手取るように二人、と倒してゆくと、後ろにふと気配を感じた。
「甘いな」
ザシュッ!!!!!
「ぐはっ!!」
ヤバい!背中を___!!
体を支えていたベルトが切れ、血が背中から吹き出る。
立体機動は、まだ.......生きてるか.....
「調査兵団の副団長が、背中を許すとは何事か」
____いや。背中を許したつもりは無い。
いつの間に、後ろに回り込まれた?
すぐさま遠くへ行こうとガスを吹かしながら奴と距離を取るも、後ろのベルトが切られてしまったせいで、地面に転げ落ちる。
____奴に、追いつかれる
「俺はそんな奴に、命をやったつもりはない」
「立てよ、唯一の成功例。レア・ロンバルド」
立てよ、と言う癖に、私を地に押し付けた彼は険しい顔で見下ろす。ハクリと開いた背中から血が染み渡り、私と彼を囲むように広がった。
「.........あなたは、」
「___はまだ熱下がらないの?」
「レアも___も同じ病にかかっちまうなんてな」
「___は死んだよ。君と同じ、実験体だった。
成功例はレア、ただ一人」「なっ、なんで........生きて......」
幼い頃の記憶がよみがえる。
しばらく思い出すことのなかったシーン。
久しく部屋の引き出しを開けた時みたいだ。ホコリをかぶった思い出が、走馬灯のように頭を駆ける。
「レアにこの花が似合うと思ったんだ。紫のマイオソーティス」少しオレンジがかった透きとおるような色素の薄い髪。立体機動は日頃から使っているのか、私達のように邪魔にならないくらい髪をそろえている。
そしてその前髪をかきあげて、彼はニヤリと笑った。
「元気だったか。レア」
「フォルク.......どうして」
30.8.9
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