何か変わりたくて藻掻く。何かを得たくて足掻く。
あなたに追いつきたくて、私なりに突っ走ってきたつもり。
あなたが私のすべてだった______
「巨人に無視されるなんてそんないい話あるわけねーだろ」
「あいつ、小細工してんだよ」
「おーい無能、おまえに左遷の話が出てるぞ」
5年前。団長のキース、分隊長クラスのエルヴィンを始めとする上の者達に認められ、レアの地位は分隊長まで上がった。
しかし、他の理解と支持を得るには時間がかかった。
「今声かけてきたのは誰?レアに左遷の話があるとか言ってたけど」
「そんなもの間に受ける方が馬鹿です。
ところで、君。誰?」
「君の支持者だよ」
「男?」
「ううん、女。ナナバ」
「そうですか」
レアが何を考えてるのか分からなかった。まるで興味が無いといった視線。上司のミケにはお前と同い年だから仲良くしてやれ、と言われた。
「あーいうの気にしないの?強いね」
「妬みでしょ。慣れましたよ」
「レアって傲慢なの?」
「さあ。ここまで生きれたのが自分のおかげじゃないことは確かです。私は無力ですよ。
____この力に生かされますから」
もう私は死んでるんでしょうね。レアは自分の指先を見つめてそう言った。
巨人に無視されるって、そんな人いるんだ。
想像したことなかったし、想像できないな。
「レア、コミニュケーション下手なの?」
「興味が無いだけです。お構いなく」
「こんなんだから他の兵士に嫌われちゃうんだよ。もっと愛想良くしたら?」
「嫌われてもいいですよ」
「いつか背中からぶすり刺されるかもよ?」
「そんなので殺されてたらとっくに巨人に殺されてますよ」
「巨人の視界にうつらないんじゃなかったの?」
「_____まあ。くだらない嘘に聞こえるでしょう?あなたは信じますか?」
「私は信じるよ。レアは、信じてもらいたくないみたいだね」
「ええ。分かってもらえなくても、別に」
「そんな寂しいこと言わないでよ」
彼女はひどく孤独だった。
夕飯の時、おかずのことでリヴァイと取っ組み合いの喧嘩をしているのを見た。あの無愛想なレアがじゃれてる猫みたいで可愛かった。
「こらこら、こんなところで喧嘩しちゃホコリが舞うんじゃなかった?リヴァイ」
「俺は食い終わった。ホコリが舞おうと関係ない」
「おおお!最強様と英雄様の喧嘩だぞ!」
「俺はリヴァイに賭けるね!」
「レアとリヴァイの喧嘩は壁内じゃ収まらなさそうだな」
「エルヴィン、笑ってないで止めてよ〜。レアなんかあんたの言葉にふたつ返事でうなずくんだから」
「そうだ。レア、リヴァイ」
「はい?」
「この後、明日の打ち合わせだ」
「明日って訓練入ってなかったか?」
「そうだが、分隊長は別のご予定があるらしいな」
「実験だよ」
「は?」
「ハンジさん、」
「レア自ら実験台になってるんだ」
「ちょ、ハンジ!詳しく教えて貰ってもいいか!?」
「え?ナナバ?どっから出てきたの?!」
レアは王政からの命令で実験を行っているらしい。もちろん、彼女の特異的な能力に関して。
「リヴァイと二人で壁外に行くみたい」
エルヴィンとの打ち合わせが終わった。あかりがポツポツと続く廊下をリヴァイとレアは無言で歩いていた。
「俺が脱がしてやろうか」
「壁内に置き去りにするよ」
「___明日には、覚悟決めろよ」
明日の実験は王政の命令どおり行われる。
リヴァイは前から王政のレアの扱いに疑問を抱いていた。
「馬鹿みたい」
「は?」
「何のために兵士になったんだろうね」
「おいてめぇ、泣いてんのか」
「うわっ!レア! な、泣いてる?」
「_____ナナバ。こいつを任せた」
「は?リヴァイ?」
「女の悩みは女が聞いた方がいいだろ」
「は?」
彼女はひどく孤独だった。
「私はあの力無しじゃもう生きてないんだ、分かってんのに。分かってんのに。
_____この期に及んで、まだ自分が大事なんだ」
巨人が興味を示さないことに関して、ここ3年ずっと続けられている実験。明日の内容は特に酷いようだ。
装置も服も全部除いたレアにも、巨人は興味を示さないかどうか。
王政は最早レアを人としてみてない。
「明日の夜、酒を持って君の部屋に行くよ。
一緒に飲もう。今日はもう、休んだ方がいい」
その時からだ。
レアと酒を飲み、打ち明け話をする仲になった。
最後には、ナナバはレアの実験を自らの手で止めることに成功したのだ。あのレアにお熱なリヴァイでさえ止められなかったのに。
「私は何年経ってもレアと酒を呑むよ」
「それ昔から言ってるね」
「うん。昔から約束はちゃんと覚えてられるたちなんだ。レアが褒めてくれた髪も大事に維持するよ」
「その笑顔にほうれい線でも掘ってやろうか」
あの晩 酌み交わした酒が最後になる。
「いつだか、リヴァイとの喧嘩を仲裁してくれたよね」
「へ?私そんなことした?」
「あの時殴っちゃってごめんね」
「はは、いいよ。あんたら喧嘩しすぎてもう覚えてない」
ウトガルド城。壁外。巨人は夜間は動かない。
「また、レアと酒が飲みたいな」
「帰ったらね」
「私の部屋に一本、とっておきのがある。レアと飲みたくてとっておいたんだ」
________はずだった。
30.3.4
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