「名前せんぱーい!」

「うな?」





手をぶんぶん振りながらこちらへ走って来るのは可愛い後輩、切原赤也である@3B前の廊下。尻尾が見えるのはあたしだけではないはずだ(わんこ的な意味で)。そうだこれこそがあたしの求める可愛さ!!決して仁王のことなんか、かかか可愛いなんて、思ってないんだからね!ってツンデレ風味に言ってみたけどキモいだけだぜ自分うえぇぇ





「先輩!」

「へ、」

「もー、何回も呼んだんスよ?」

「ごめんごめん、どしたの?」





いろいろ考えているうちにどこかにいってしまうのはあたしの悪い癖だ。いつのまにか赤也は目の前にいてぷくっと頬を膨らませていた(こんだけ可愛いくせにクラスじゃ男前路線らしい、信じらんねぇ)。その頬を指でつついてやると、にかっと笑ってから両手をあたしの目の前へ。





「は、なに」

「マフィン! 家庭科の実習でつくったんでしょ? 俺せんぱいがつくったやつ食いたいっス!」





あーそんなんつくったなと思い出し、いいよ、と言おうとしたがそれはとてつもない衝撃により遮られた。





「ごふっ!」

「なぁに言ってんだよぃ赤也。食いもんもらうのは俺の専売特許って決まってんだよ!」

「ひ、人にタックルしといて何事もなかったように話すのやめてくれるかな丸豚」

「はは、わりーわりー」

「ムカつく! てか離れろ!」





いきなりタックルしてきたのは言うまでもなく丸豚こと丸井ブン太。しかもタックルからのHOLDという苦しいプラス女の子の目線攻撃である。最悪である。





「むーり、マフィン寄越すまで離してやんねー」

「ちょ、丸井先輩ずるいっスよ! 俺が最初に言ったのに! しかも名前先輩に抱き着いてるし!」





俺も!と赤也まで抱き着いてきてぎゅうぎゅうと力を入れられる。な、なんだこの状況、シュール……!





「マフィン寄越せー!」

「せんぱーい!」





うぇ、苦しい……


べりっ


とたん、拘束がなくなる。なんだなんだと顔をあげると、そこには不機嫌丸出しな仁王雅治がいた。





「げ、仁王先輩」

「あー、はは、お、俺やっぱマフィンいいや。じゃなっ!」





あのお菓子に目がない丸井すら諦めて逃げ出すほど凄まじいオーラを放つ仁王は、あたしの腕をぐいっと引っ張り歩きはじめた。
ちらりと赤也の方を振り返ってみると、あわあわとしてから最後には「先輩がんばっ!」と口パクで告げた。「俺は名前先輩至上主義っス!」とか言う赤也もなんだかんだいって直属の先輩には逆らえないのだ。





「におー、どこいくの」

「……」





無視ですか。
無情にもチャイムは鳴り次の授業の始まりを知らせる。まぁ別にサボったっていいけどさ、





「仁王くーん、におー、まさはるー」

「っ」





仁王がいきなり止まるから足が追いつかず衝突。いってー!





「急にとまんないでよ!……わっ」





くるり、仁王が振り返ったかと思えば温もり。つまりは抱きしめられていた。





「え、ちょ」

「あの二人だけ名前ちゃんと仲良くてずるいナリ」

「……いや、仲良くないけど」





おかしいぞ。
さっきあの二人に抱き着かれたときはなんともなかったのに、今は顔がありえないくらい熱い。仁王が耳元で話すたびにドキドキする。





「名前ちゃん、好きじゃ」

「っ!」





もう、だめだ。



どん



仁王を突き放して走る。走って走って階段を駆け上がってその先にある女子トイレに駆け込んだ。





「なんだ、これ」









ぐちゃぐちゃ



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