「名前ーなんか仁王くんがあんたに用だってー」

「は?」







思い返せば友達のこの一言が始まりだった。
ここであたしがガン無視を貫いて寝たふりでもしてればこんな面倒なことにはならなかったのだ。






「仁王ってテニス部の?」

「うん。てか見ればわかんじゃん」




友達の指差す先、教室の扉にもたれ掛かっていつもどおり気怠そうにしているのは、紛れもなく隣のクラスのプレイボーイ仁王雅治。仁王の存在に気付いたクラスの女子が色めき立っているのは明らかだ。




「……行きたくない」

「でました名前の女泣かせ嫌い!」

「いや好きな人なんていんの?」

「いるからこんな教室がピンクな空気なんでしょーが」

「……ですよねー」




ちらりと仁王に視線を向けるとバチッとかちあい、なんかよくわからんが微笑まれた。




「……」

「名前ちゃーん、顔に出てるから。なんだあいつって書いてあるから」




てかうるさいからさっさと行ってきて。
げし、と背中を蹴られつんのめる。血も涙もねぇなこいつ。てか、えーまじかよー話したくねーよー。






「……なんすか」




ぶすっとしたまま仁王に尋ねる。
苦手なのだから仕方ない。
女泣かせ、っていうので嫌いなのもあるけど、仁王のこの雰囲気も苦手だ。緩いようで糸がぴんと張ってる感じ。力抜いたら騙されそうな緊張感。さすがはペテン師と呼ばれるだけある。



「……」


「……」





沈黙。

え、なにこれ。まさかの放置プレイ?
焦りはじめたところで仁王が口を開いた。






「好きじゃ。付き合うてほしいナリ」




ざわり、



空気が大きく揺れた。女子の悲鳴やら好奇の声が聞こえる。





まじ、ない。





「あたしあんたみたいに何又もかけて女の子泣かすようなやつ大っ嫌いだから無理です」





しん――……



あたしが放った言葉によって、さっきまでのざわつきが嘘のように静まり返った。





うっわきっつー……



こそっと聞こえた忌ま忌ましい声に舌打ちを一つ。




「ついでに言えばこんな悪趣味なこと考えるあんたのことはもっと嫌いじゃ丸井ブン太ァァァア!!!!!」





影に隠れていたつもりだったのだろう声の主である丸いブタの頭をはたいてやればいってー!!と睨まれた。





「罰ゲームかなんかわかんないけどあたしを巻き込むのやめてくれるかな!」

「あちゃーバレてた?」

「あちゃーじゃねぇよ」

「俺は止めたんスよ!!」

「あれ、赤也いたの」

「ひでぇ!」




丸いブタがブタなせいで見えなかった赤也がひょこりと顔を出した。名前せんぱーい、と明らかしょぼくれる赤也は、ち、ちくしょー可愛いィィィイ!!!





「テイクアウトOKですか」

「いやだめだろ」




せっかくのいい気分も丸いやつに邪魔された。……肥えろ。




「つーかお前のせいで仁王固まっちまったじゃん」

「え、あたしのせい?」

「お前がきっつーい言葉浴びせたせいな」

「お前がこんな企画たてたせいな」

「やだぁ責任転移ぃ!」

「ちょ、お前まじ一回殴らせろ」

「先輩それもう殴ってます」




いまだ動かない仁王に若干罪悪感を感じ目の前で手を振ってみる。おーい、生きてますかー?




「、」




やっと動いたかと思えば徐に携帯をとりだした仁王。電話かなーと視線をずらそうとしたが、仁王の次の行動に遮られた。




「え、……えェェェェェエ!!?」





仁王の手には無惨に折られた携帯。
そ、それっていわゆる、逆ぱかってやつですよね!?




「え!?仁王先輩!?」

「なにしてんだよぃ!」





三人、いやむしろそこにいた全員がぽかーんとする中、仁王は真顔でがしりとあたしの肩を掴んだ。




「な、なに?」

「他の女は今すぐ切るから付き合うて」

「あ?」





思わず突き飛ばしてしまったが仕方ない。





「全員に謝罪してから出直してこいバーカ」






FirstContact



いやだってまさかあの仁王が本当に全員に謝って別れるなんて思わなかったわけで、



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