あの後ベットに座ってぼーっとしていると卯ノ花さんがやってきて何も言わずに頭を撫でられた。それがどういう意味だかあたしにはわからなかったけど、
「市丸」
隊舎に戻ると吉良副隊長はいなくて、ただ市丸が座っているだけだった。
「……名前ちゃん、もう平気なん」
「はい。……止めてくれましたよね」
「はて、なんのことやら」
「ありがとうございます、って言いたくて」
「ええよ別に」
「あのままじゃ確実に解放してたから、」
ありがとうございます
市丸は微かに眉間にシワを寄せて立ち上がった。ぐいっと腕を引かれる。
「っちょ、」
離れようと胸を押してみても、やはり敵うわけもなく抱きすくめられてしまう。
「なぁ」
「なん、ですか」
「名前ちゃんが気ぃ失う前に言った隊長って、ボクんことちゃうやろ?」
「……」
「そないに、前ん隊長サンが好きなんや」
「っ、隊長は、あたしを止めてくれた人だから」
「ボクが止めても、ボクのことはみてくれんの……?」
耳元で聞こえる切なげな声にきゅう、と胸が締め付けられる感じがした。なんで、なにこの懐かしい安心感。包まれるような匂いにさえ、きゅう、心臓が泣く。
「だ、め…やめて」
「なんで?」
「隊ちょ」
「今はボクんこと見てや」
「や、」
訳もわからずぼろぼろと涙が零れる。
隊長、隊長、隊長
あたし、どうしたらいいの。この心臓の痛さは何? 市丸と隊長を重ねて? それとも市丸自身に?
「……堪忍な」
す、と市丸の身体が離れていく。くしゃりと髪を撫でられて顔を上げると、いつもより少し悲しそうな市丸の顔にまた胸が痛くなる。
「泣かせるつもりはなかってん、ホンマ」
頬に伝う涙を指で拭われれば、また涙が溢れる。
「市ま、る」
「 ん?」
「隊長とは、呼べないけど、じゅ、ぶん尊敬してるし、感謝して、る」
「……そない可愛いこと言われたら我慢出来なくなるやん」
ぺろりと涙を舐められた。
「っ、調子のんなっ狐」
「はは、それでこそ名前ちゃんやわ」
へらりといつものように笑う市丸に安心感を覚えたあたしは変だと思う、