最初はド生意気なこいつを泣かしてやりたいとかいう気持ちだけだった side丸井ブン太 苗字と席が隣になったときは運命だと思った。 ってのは大袈裟だけど、心底嫌そうな顔をするあいつの隣で俺は笑顔だった。 「よー、苗字。よ ろ し く なぁ」 「・・・・・・さいあく」 そして俺は見事苗字を飼い馴らした。 口喧嘩しながらもあいつはよく笑うようになったし、相談だってされるようになった。 と同時に悔しいのは、俺も相当飼い馴らされたってこと。 不覚だが苗字といると楽しいし、悩みだって苗字相手だとぽろっと出てしまう。 でも一つ言っておこう、 苗字は俺を親友だと思ってるみたいだけど、俺は苗字を親友だと思ったことなんて一度もない。 確かに苗字は俺にとって大事な存在だった。 でもそれ以上に俺はあいつに対して、征服欲だとか、そういったものを持っていた。 俺を考えて泣けばいいんだよ、お前は。 「なーなー俺彼女できた」 「は」 休みが重なって、いつもどおり放課後二人でぶらついた。それから俺行きつけのケーキがおいしい喫茶店へいって、普段通りくだらないことばかり話していたとき。軽い口調で言った俺の言葉に、苗字は固まった。 「ちょ、まじ?」 「まじまじおーまじ」 「今までつくらなかったじゃん」 「まあなー」 「ふーん・・・・・・」 目線を落として、混乱したような、 ―――かーわい。 俺はそういう顔が見たかったんだよ。 「なに? もしかして嫉妬?」 「はー? 意味わかんな。あたしだってすぐ彼氏つくるし」 「苗字には無理だって」 「うざー!」 苗字の表情には確かに寂しさが滲んでいた。 あーあ、こいつ鈍感だからな。 やっぱり一筋縄じゃいかない。 でもそういうところが、 「ブン太〜」 「おー」 甘ったるい声。 「ずっとブン太くんのことが好きだったの」なんて嘘見え見えの告白に、「俺も」なんてこれまた見え見えの嘘を返したのはこいつが使えると思ったからだ。 批判を買いそうだから先に言っとくが、自分に好意をもってくれてる子を利用するほど俺は腐ってない。 でも自分の価値を上げるためだけに、テニス部なら誰だっていいみたいに片っ端から告ってるような女、利用したっていいよな? まあこいつは利用されてるなんて夢にも思ってないんだろうなぁ。 なんたって俺のこと、利用してるつもりらしいし。 「苗字」 「ん?」 「明日さー遊ぶはずだったじゃん」 「うん」 「わりーんだけど、あいつも部活休みみたいで・・・・・・」 「あ、」 そうそう。 苗字のこういう顔見れるなら、利用されてる振りいくらだってしてやるよ。 最後に泣き見るの、お前だと思うけどな。 「うん、わかった! 彼女といちゃいちゃしてきなよ!」 「おーさんきゅ! また今度埋め合わせするからよ!」 だからさっさと気付いちまえって。苗字。 「わりい今日あいつと帰るわ」 「あいつが昨日さー」 あいつの話をするたび苗字は寂しそうな顔をした。 でも俺は腐ってるから、 苗字と過ごす時間を減らしてわざとあいつの話を増やした。 でもそれは、予想以上に俺にダメージを与えた。 「苗字ー今日屋上」 「え、寒い」 「俺が屋上っつったら屋上なんだよ、そこんとこシクヨロ」 「ふざけじゃん」 「いーからいくぞ! 陽射しあるから大丈夫だって」 「はいはい」 昼だけはあいつに邪魔されることなく苗字と過ごしたかった。 正直それだけじゃ全然たりなくて今にも爆発しそうだったけど、まだ、まだだ。 「どわっ さんむ!」 「どわって・・・・・・おっさんかお前」 寒い屋上を選ぶのだって誰にも邪魔されないで苗字を独占したいからだ。 ぶるぶる震える苗字を一通り笑ってから、テニス部ジャージをわたす。 俺だって一応、苗字のこと考えてる。 ありがとう、とはにかんだ顔を見て心臓の奥が熱をもつ。 あー 苗字がどうこうの前に、俺が重症だわ。 今すぐにでも抱き寄せたい気持ちを押さえ込んで、いつもどおりくだらない話をしていた。 いつもどおりの昼休みだった。 「ブン太!」 飛び込んできた甘ったるい声にどろりとした嫌悪感が湧く。 おいおいふざけんなよ。 何か言ってやろうと口を開こうとしたとき、苗字の表情が視界に入って口を閉ざす。 へぇ、 さっきまで心臓を埋めようとしていた嫌悪感はすぐさま消えて、口角があがるのを隠すので手いっぱいとなった。 やーばい 「やっと見つけたよ〜。ブン太とお昼食べたいんだけど、ダメ?」 いかないで 苗字が口に出さなくたって顔に、出ていた。 やっと、やっとだ。 ほんと我慢したかいがあった。 やっと満たされる。 「あー・・・・・・」 「まる」 でも俺は底意地悪いからさ、 「苗字ごめん」 なぁ、もっと傷ついて ? |