ずくずくと腹の中がうずく。


あー可哀相。可哀相な苗字。


一人取り残された屋上であいつがしているだろう表情を想像するだけで





「ブン太?」


「ん?」


「無意識? 口角、あがってる。ねぇ、なんで?」


「なんでって、お前と昼食うの初めてじゃん」


「もう・・・・・・」






ぞくぞくする








side丸井ブン太









「おもしろいやつがおる」



珍しい、と思った。
仁王が人のことをおもしろいとか言うなんて。
しかも聞いてりゃ女。
女嫌いの仁王が女を褒めるなんて滅多にない。



「俺あいつじゃったらずっと一緒にいても苦痛じゃなか」



まじか。

仁王にそこまで言わせるやつがどんなやつなのか気になった。


にさん回仁王のクラスにそいつを見に行った。
だけど毎回「今はおらんよ」と仁王に言われるだけに終わった。
なんだよ。
あれだけ気になっていたが回数も増えれば好奇心も薄れていくわけで、
仁王のクラスに見に行くこともなくなりそいつの存在は俺の中でどんどん薄れていった。






クラス替え。
俺はその日の朝練で満足いくプレーができず、相当いらいらしていた。
あー、うぜ
そんなときに限って女子達は「丸井くん! おんなじクラスだよよろしくね!」「丸井くん!」「丸井くん!」だぁーうるっせ。女子達はぎゃあぎゃあ騒いでるし。
とにかく気分は最悪だった。



「(腹減ったし・・・・・・)」



ジャッカルはいねえしな、



ふと甘いにおいがした。




「なぁ」



振り向いたそいつは少し驚いたような目で「なに、」と聞いてきた。



「菓子もってねぇ?」



別に持ってることを確信してるわけじゃなかった。期待はしてたけど。

だから「持ってない」、そう言われたってしょうがない、で終わったはずなのに



「は?つかえな」



口からでたのはそんな、自分でも最低だと思う言葉だった。

あー

まあ、いいか。
別にこいつに好かれたいとも思わねぇし、めんどくせー。



黙ったままの女に視線を移して、予想外の表情に戸惑った。



え、笑顔?





「あ? つかえないのはお前だろーが急に話しかけてきて人を不快な気持ちにさせやがって。テニス部だかなんだかしらないけど? 全国だかなんだかしらないけど? テニスができたって中身これじゃーね、ちっともすごいと思えないわーてゆうかテニスしか出来ない役立たず? ほんとそんなやつが何様だっつの、ウザい通り越してもう苦笑い? いたたたたー」




一息で吐き捨てたそいつに唖然。
というか言葉の意味を理解するのにかなりの時間を要した。
周りが凍りついて女子達が悲鳴をあげている。
満足、といった表情を浮かべるそいつを見たまましばらく動けなかった。





「っ・・・・・・ははははは! さすが名前、っ、腹いたいなり」




名前、その名前は聞いたことがある。
そうだ、いつだったか聞いた仁王お気に入りの女の名前がそれだった。
なるほど、他の女とは違うってか。


それにしても



「すっっっげー不快!」


「やられたらやり返す主義なんで」


「お前みたいな失礼な女はじめて見た! つーか女じゃねえ!」


「はぁ!? どこの清楚女子つかまえて言ってんだこらふざけんなよ」


「清楚!? 清楚のせの字もないやつがなに言ってんだよ、うけるー」


「うっざーこんなやつと一年同じクラスとか萎えるわー」



先生の登場によって口を閉じた俺をほっぽって席につく苗字名前。



色々と衝撃だった。



それと同時に俺は腹の中で膨らむ征服欲に気付いていた。




「(・・・・・・見てろよぃ)」







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