「わりい今日あいつと帰るわ」


「あいつが昨日さー」









丸井に彼女ができてから、丸井とあたしが過ごす時間は激減して、かわりにあの子の話が多くなっていった。


順調じゃん、よかったね。


口ではそう言ったって、少し寂しかった。
急に親友が遠くへ行ってしまった。
それでも平気だったのは昼は絶対あたしと食べてくれていたからだ。
少し前はずっとやっていたちょっとした言い合いやふざけあい、昼休みは普段通り笑っていられたから、少し離れたって丸井は親友だって思うことができた。

丸井に彼女がいて、全く話すことがなくなったって、丸井はずっと親友だ。














「苗字ー今日屋上」


「え、寒い」


「俺が屋上っつったら屋上なんだよ、そこんとこシクヨロ」


「ふざけじゃん」


「いーからいくぞ! 陽射しあるから大丈夫だって」


「はいはい」







昼を過ごす場所はだいたい丸井が決める。
屋上か教室か中庭。
最近寒くなってきたというのにやたらと屋上で過ごすことが多くなった。
馬鹿なのかなこの子。







「どわっ さんむ!」


「どわって・・・・・・おっさんかお前」






屋上の扉を開けた瞬間なだれこんできた冷風にぶるりと身体を震わすとげらげらと笑い出した丸井を睨む。お前が屋上で食べるっつったからだろーが!






「ったくほら」






日なたでも寒いじゃんかアホ!

言おうと思ったとき丸井に差し出された山吹色。





「は?」


「はじゃねーわ! 寒いなら着とけっつってんの!」


「いやいやこれテニス部ジャージ」


「それしかねーから我慢しろ」


「いや、そういうんじゃなくて」


「なんだよ」


「・・・・・・いや、ありがと」





ジャージをあたしに押し付けて、弁当ひろげながら おー。と呟く丸井を見る。

なんか最近、あたし変だ。






見て見て、幸村羽織り。
みんな、動きが悪いよ!

なんかちょっと違うし幸村くんに見つかったら怖いぜ。




くだらない話をして、ジャージのおかげか暖かくて。

いつもどおりの昼休みだった。







「ブン太!」




がちゃりと屋上の扉が開いて丸井と二人だった空間にふわふわした明るい音色が飛び込んできた。



いやだ



ぱっと浮かんだ言葉がそれで、声に出しかける寸ででとめる。



今あたしなに考えて、




でも心の中で膨れ上がる真っ黒い、マジックで塗り潰したような醜い感情は止まることを知らず

どんどんどんどん大きくなって





やめて、お願い

あなたはいつも丸井といれるじゃん




「やっと見つけたよ〜。ブン太とお昼食べたいんだけど、」




あたしはこの時間しか、この場所しかないのに、




「ダメ?」





お願いだから

邪魔 しないで 、












「あー・・・・・・」


「まる」


「苗字ごめん」








その瞬間温もりをあたえてくれていた山吹色のジャージも、多少なりとも暖かかった日差しも、心臓の奥のほうも、

すっと冷えて

そのすべてが目や鼻の奥へつんとした刺激を与えた。





なに、考えてんだあたしは。




彼女と親友、いや丸井は親友だとも思ってないかもしれない。ただの友達。
その友達と彼女なんて、比べる対象でもなけりゃどっちが優先されるかなんて考えなくてもわかることで、
お昼だけは、なんてそんなことないんだ。
そんな、







「丸井、」





丸井の立ち去った屋上でようやく自分の気持ちに気付いたって


もうおそい







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