わたしには親友がいます


ずっとずっと嫌いだったやつです



















「おい苗字」


「なに丸井」


「菓子くれ腹減った」


「・・・・・・両手のお菓子食べ終わってから言ってくれる? 他の子に」






ほら、

「丸井く〜んこっちお菓子あるよ〜」とお菓子片手にあまーい声で呼びかける女の子達を指差すと「おー! さんきゅー!」とお菓子目掛けて突っ走る丸いブタ。じゃなくて丸井ブン太。




こいつの第一印象は最悪だった。

クラス替え早々同じクラスになったちょっと有名なテニス部の赤髪が「菓子もってねぇ?」と聞いてきた。

そこまでは別によかった。
うん、よかったのだ。



「もってないや、ごめん」



そこからがいけなかった。

お菓子をもっていない私は正直に答えてなんとなくの申し訳なさからごめんもつけてみた。

つけて や っ た のだ。

それなのにやつが言ったことといえば、



「は?つかえな」


































「あ? つかえないのはお前だろーが急に話しかけてきて人を不快な気持ちにさせやがって。テニス部だかなんだかしらないけど? 全国だかなんだかしらないけど? テニスができたって中身これじゃーね、ちっともすごいと思えないわーてゆうかテニスしか出来ない役立たず? ほんとそんなやつが何様だっつの、ウザい通り越してもう苦笑い? いたたたたー」






一息で吐き捨てて満足感に浸る。はっ、ざまあ。周りが凍りついていようがテニス部親衛隊が悲鳴をあげていようがあたしには関係ない。こういう初対面から失礼なやつ大っ嫌いですから。




「・・・・・・おまえ」


「なに? 言いたいことあんならそっちも言えば?」





ぷっ


吹き出す音を聞いてそのもとに視線を移すと、2年のときわりかし仲のよかった仁王が肩を小刻みに揺らして笑いを堪えていた。あ、爆笑しだした。





「っ・・・・・・ははははは! さすが名前、っ、腹いたいなり」





ひーひーと声を漏らしながら爆笑する仁王に「あ、また一緒のクラスじゃんよろしく」と手をふればさらに爆笑された。なぜ。





「っ」




いままでぽかんとしていた赤髪が、仁王の笑い声にはっとして仁王を睨む。
そしてあたしのほうへ向き直りものっそい怖い顔で吐き捨てた。





「すっっっげー不快!」


「やられたらやり返す主義なんで」


「お前みたいな失礼な女はじめて見た! つーか女じゃねえ!」


「はぁ!? どこの清楚女子つかまえて言ってんだこらふざけんなよ」


「清楚!? 清楚のせの字もないやつがなに言ってんだよ、うけるー」


「うっざーこんなやつと一年同じクラスとか萎えるわー」





先生の登場によって口を閉ざした赤髪をほっぽって席へ。

がん萎え。









その後の席替えで隣が赤髪、丸井になったときは本気で自分の運の悪さを呪った。



しかし隣で毎日言い合っているうちにだんだんと笑いが増えていって、最初から遠慮なんてなかったもんだから他人に言えない本音だっていつしか言える仲になっていた。



丸井には言ったことなんてないけど、いわゆる親友、だなんてちょっと痒いことを思ったりしてるわけである。











「もらってきた!」




両手にお菓子の袋を掲げて嬉しそうに笑顔をつくる丸井に自然と頬が緩む。




「女の子達、一緒に食べよってことだったんじゃないの?」


「んーでも俺苗字と食べたいし」


「・・・・・・馬鹿だー」





そんなん言われて嬉しくないわけがない。
女の子の中であたしが一番仲いいんだよって言われたみたいな錯覚におちいる。


たまーにふと思うのだ。

あたしと同じように、丸井もあたしのことを親友だと思ってくれてたらいいなって。

この感情は少し恋に似ている。







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