最近仁王がおかしい。
いや、真っ当になったと言うべきか。
あれだけ女取っ替え引っ替えしてたのに最近はめっきりそれがなくなった。
「どうしちゃったわけ、お前」
携帯片手に幸せオーラ振り撒く仁王に眉を寄せる。マジおかしくなっちまったんじゃねえの、
「俺は今幸せなんじゃ」
「は、」
話を聞いてみれば本気で好きな女ができたらしい。あの仁王が。「女なんてみんな一緒じゃ」なんて言ってた仁王が。
「ブンちゃんブンちゃん」
「んーだよ」
「俺いま幸せ」
きもい。
「あ、」
日曜、珍しく部活が休みになって弟の誕生日が近いこともあり買い物に出ると、見覚えのある顔。男と歩くそいつは確かにどっかで見たことがある。でも思い出せない、誰だっけ。
(……あ、思い出した)
仁王の女じゃん。
「お前の彼女、浮気してるぜぃ」
月曜、いまだに幸せオーラ振り撒く仁王に言ってやったら一瞬きょとんとしてからへらりと笑った。え、
「知っとる」
俺は名前が好きじゃけど、名前は俺のこと遊びの一人としか思っとらんよ。
へらへら笑う仁王が痛々しかった。お前それでいいわけ、
「今まで俺が遊んどった報いじゃ」
……そうとう変わったなコイツ。
「なぁ、ちょっといい?」
このあいだとは違う男と歩いていた仁王の女、苗字名前の腕を掴んで引き止めた。すると女は一瞬怪訝そうな顔をしてから満面の笑みで俺の腕に絡み付いてきた。
「翔!!」
「は、」
翔って誰だよ、女を見ると黙って、と小声で囁かれた。わけわかんねぇ、
「あたし今あんたより翔が好きなの、ばいばい」
呆ける男に冷たい声で言い放つと俺の腕を引っ張って走る。なんなんだよコイツ、ちょー意味わかんない。
「はー、疲れた!ありがとね助かっちゃったよー。あの男つまんなくて怠かったんだよね」
結構走って立ち止まった。あっちは息上がってるけど俺は普通。伊達にスポーツやってねぇし。
息を整えながらにこにこと笑う苗字名前をじっと見遣る。あ、よく見たら可愛い。ってなに考えてんだ俺。
「あ、あたしになんか用あったんだよね。なに?」
忘れかけていたが俺がコイツを引き止めたんだ。おかげで面倒なことに巻き込まれたけどそれも今はどうでもいい。
「お前仁王の女だろぃ」
仁王……あぁ雅治? 違うよあたしが雅治の女なんじゃなくて雅治があたしのなんだよ。
悪びれることなくそう言うと、あ、と声をあげた。
「きみ名前なんていうの? ほんとに翔、なんてことないでしょ?」
おいおい仁王のことはもう終わりかよ、
唖然としつつちゃっかり名前を答える俺もさっそくこの女に毒されてる。
「そっかそっかブン太くんかー、雅治と同じ部活なのかー」
「おー」
「えーと……バスケだっけ?」
……仁王のやつそうとう相手にされてないじゃん。
テニスだよぃ。あ、そうなのごめん。別にいいけど。雅治元気?は?いやもう一週間会ってないから。は?
「……最低って言われねぇ?」
「言われる言われる、別れ際には特に」
自分だって同じことするくせにね、
けらけら笑ってるけど目が笑ってない。意味わかんねー。
「雅治もそうだったんでしょ? 今のあたしみたいに取っ替え引っ替え二股三股なんでもござれって感じで。あたしそうゆう人としか付き合わないもん」
怠いし。でもそうゆうやつも別れ際には被害者ぶって最低とかいうんだよねー、うざったい。
仁王の言ってた"報い"ってのがなんなのかようやくわかった。そして仁王が惚れるのも頷けるキョーレツなキャラ。
正直言って仁王の女とかそういうことはどうでもよくなってしまった。
今俺の中にあるのはこの女に対する興味。
「おまえさ、」
「ん?」
「俺と付き合おーぜぃ」
「ははは、あたし一応雅治の彼女だよ?」
「どーでもいいだろぃ」
「……、一人にしぼらないけどい?」
「もちろん」
「はぁ」
「俺もお前と一緒でサイテーなの」
「はは、上等!」
仁王にはわりぃけど俺もこいつのことが知りたい。そんでいつか「ブン太しかいらない」って言わしてやんの。うわなにそれちょーいーじゃん!
「雅治かーわいそ」
「お前がそれ言う?」
「お前じゃないよ、名前」
「名前」
「ブン太」
可愛く笑って俺の首に手をまわしキスをした名前はとんだ悪女。
ま、だから仁王も他の男も骨抜きになんだろーけど。
「ん、わかった。じゃあの名前、好いとう」
「……彼女?」
「そうじゃ、愛しの名前ちゃんナリ」
「なー仁王、」
「ん? なんじゃブンちゃん」
「、なんでもねー」
結局のところ人間なんてみんなサイテーで滑稽、あの男も仁王も名前ももちろん俺も。だったらサイテーの極み、目指してやろーじゃん。つって、
極
み
の キ ワ ミ