「まぁ確かにかわいいよね、苗字さん」
「は、」
水色の急な発言になぜか心臓が冷えた。なんだ今の、疑問に思いつつも俺の机に寄り掛かる水色の顔を見上げると、水色はえっと声を上げた。
「まさか一護無自覚?」
「何がだよ」
「最近いつも苗字さんのこと目で追ってる」
「……そうか?」
「うん、だからてっきり好きなんだと思ってたよ」
俺が苗字を? いや、ない、と思う。苗字とはたまに話すけど特別仲がいいわけじゃないし、まぁ、水色が言ったようにかわいいと思うしいいやつだと思うしもっと話してみたいとか思ったりもするけど、って、あれ?
「それ、好きってことでしょ」
そうかもしんねぇ……
と、まぁこんなことがあったのが一昨日の昼休み。
それからなんか苗字が気になって意識的に目で追うようになった。そしたら動きとか言うこととかその他もろもろ一々可愛いなとかキャラじゃないこと思いだしたりして俺キモいとか思いつつ苗字が好きだと自覚。
「あ、黒崎くんおはよー」
「はよ」
こんな挨拶だけでもテンション上がる俺はほんとキモいと思う。
「名前さぁ、好きな人いないわけ?」
竜貴ちゃんの突然の質問に最近よく脳内を占めるあの人の顔が浮かんだ。やはり好きなんだろうか。
「うーん、わかんない」
正直今まで恋愛に興味がなかったあたしは好きという感情がどんなものなのかよくわからない。
「わかんないってあんたねぇ……気になる人とかは?」
「いるよー、でもそれが好きなのかがよくわかんない」
「なになになに!!!名前の好きな人!?あたしに決まってんでしょ!」
「千鶴は黙ってろ!!」
「え、千鶴ちゃんやだなぁ。好きに決まってんじゃん」
「ぶふっ(鼻血)」
「千鶴ちゃんも竜貴ちゃんもみんなみーんな大好き!!」
「(つ、罪な女だわ……)」
「だから今は好きな男の子とかよくわかんないしいいかなぁって」
女の子同士でわいわいするのはすごく楽しいし、なんか人を好きになるって未知すぎて怖いし。
なんて思っていたのが一昨日の昼休み。
なんだかよくわからないけどあの人があたしの頭を占める時間はだんだんと増えていた。
「あ、」
あの人、黒崎くんが視界に入ると心臓が痛くなる。だったら見なきゃいいんだけど知らないうちに探しているのだから悪循環。なんだこれ怖い。
「黒崎くんおはよー」
「はよ」
普段通りの挨拶も心臓を締め付ける要因になるだけだった。黒崎くんの視界にあたしが入っていると思うと頬が熱くなってあたしがあたしじゃなくなったみたいだ。怖い。
しかしあたしは気付いていた。これが俗世間でいう"好き"という感情だということに。
「うーむ、」
「どうしたの、名前。あんたがそんな深刻な顔するなんて珍しいじゃない」
「……竜貴ちゃん」
よっ、と顔を覗き込んで言う竜貴ちゃんにへらりと笑って見せる。もっとも竜貴ちゃんは笑わなかったが。
「笑ってごまかさない。なに、どうしたの」
どうやら竜貴ちゃんにはわかってしまうらしい。観念して口を開いた。
「恋愛ってさぁ」
「ん、」
「怖いね」
「……」
「でも、」
楽しい。
黒崎くんを見ていると確かに心臓が痛くなるけど、それと同時に世界が鮮やかになることも確かなのだ。怖いけどキラキラしてて、まさに未知の体験。
「よかったね」
「うん」
「で、」
「ん?」
「だーれよ、あんたの好きな人」
いい笑顔で竜貴ちゃんが聞いてくるから、満面の笑みで彼女の幼なじみの名前を告げた。
自覚してしまうともっと話したいだとかの欲求がわいてきたり男と話しているのを見てよくわからない焦りを感じたりするものである。例に漏れず俺もそうだったりするわけで、
「一護ってさ、やるときはやるよね」
「は、」
「いや、好きだってわかって急に話しかけたり、あんまできないと思うよ」
水色はそういうが、苗字とよく話すようになったのは席替えのおかげだったりする。運よく隣になったのだ。
やっぱり話していると落ち着くしなにより苗字がいいやつ。確かに顔や言動も可愛いが、俺はこういう中身に惚れた、んだと思う。
「でもさ、」
「あ?」
早く捕まえたほうがいいと思うよ。
楽しそうに笑う水色に疑問符を浮かべるとほら、と口を開く。
「苗字さん、モテるから」
まぁ僕は同い年興味ないから安心してよ、とかいう水色の声は右から左に流れる。
タイミングよく、というか悪くというか、名前が他クラスの男子に呼び出されているところだった。あの性格にあの外見、モテないはずがないとは思っていたが、実際に見ると思っていた以上に堪える。
「一護、」
聞き慣れた声に振り返ると、なんとも言えない顔の竜貴がいた。
「なんだよ」
「ちょっといい?」
名前のことで話がある。
竜貴の有無を言わせない声とその言葉に俺は頷いた。
―――――――
長くてすいません!
続きます!