彼の存在はどこかあやふやで、消えてしまいそうだと何度も思った。
細くて色素の薄い綺麗な髪も、へらりとした笑い方も、本心を隠すような口調だって全部全部彼の存在を儚いものにする要因でしかない。
名前、
彼の声は心地がいいけれど同時に切なさが孕まれていて泣きそうになる。
ぎゅ、と彼の手を握る。
ちゃんと、ここにいる。



「手、冷たい」

「手が冷たいんは心があったかい証拠なんやで」

「そうだね」



優し過ぎる彼は、他人のためなら自分を悪にすることだって簡単にしてしまうだろう。
そんな自己犠牲、誰も喜ばないというのに。



「ギン」

「ん?」

「いなくならないで」

「いっつも名前はそれやなぁ」



いつだって彼は答えを濁して確証を与えてくれない。
それでも彼の存在を確認してしまうのは不安だからだ。



「嘘でもいいからいるって言ってよ」



握っていたギンの手があたしの手を握り返す。
それだけ。
いつもは嘘だって簡単につくのに。
彼の優しさはあたしを苦しめるものでしかないということに、彼は気付いているだろうか。
優しくて残酷、
優しくなんてされなければ彼が消えてしまっても傷付くことはないのに。
そんなこと彼の優しさを知ってしまってから思ったところでなにも変わりはしないのだけど。



「名前、」



あぁ、彼の声が耳に響いて痛い。






静かなる自己犠牲






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そのうち修正します

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